最後まで行く

最後まで行く、見ました。



2015年5月21日、新宿シネマカリテにて。カリテ・ファンタスティックシネマコレクション!2015の上映作品です。



http://www.albatros-film.com/movie/saigomadeiku/











この映画、すんげえ面白いのでストーリーの予習は出来るだけしないで行った方がいいです。



過去の作品に例えにくい、独特の感性に満ちた作品。ブラックな笑いに満ちたコメディと、シリアスなサスペンス性の同居。うまさに唸ったという意味だけで言えばチェ・ドンフンのデビュー作『ビッグ・スウィンドル!』の感動に近いかなあ。





あらすじ追っていきます。



雨の降る夜道を車で走っている男=主人公。運転しながら携帯電話で話している。自分の母親の納棺が迫っているにも関わらず、葬儀場にいない。



路上で犬を轢きそうになって避けた直後、人をはねてしまう。はねられた男は血を流してすでに事切れている。



思考停止に陥る主人公。死体を路肩に寄せてパトカーをやり過ごした後で、自分の車のトランクに死体を載せてその場を去る。そこには首輪の付いた犬が取り残される。



飲酒検問につかまり、自分は刑事だと主張するが身分を証明できない。車から降ろされ警察官5人に囲まれる主人公。



トランクの中を調べられそうになった瞬間、警察無線から「身元が確認できた。○○署のイ・ゴンス刑事だ」と聴こえてくる。ゴンスは警察官たちを整列させて説教。鬱憤を晴らす。



トランクの死体をどうすることも出来ないまま葬儀場へ辿り着くゴンス。仏前で呆然としていると妹の娘がじゃれてくる。ゴンスの妹は納棺に遅れた兄を叱責。



母親の死を哀しむ余裕もないまま納棺。(韓国では土葬がポピュラーみたいです。)母の遺体が納まった棺桶を木の杭で閉じていく。



安置室から廊下に出たゴンスの目に排気ダクトが目に入る。ゴンスの頭に「母親が納められた棺にあの男の死体を隠す」というアイディアが降りてくる。



この無茶な作戦を必死に実現しようとするゴンス。やってることは刑事による死体隠匿なんですが、後ろ暗さを感じさせないよう笑いが満載で面白い。自然な流れでそこに存在する様々なアイテムを駆使して、自分の罪を隠しきろうとする男の滑稽さ。母親の死を悼むどころか罰当たりまくり。



なんとか死体を棺に納め、埋蔵までこぎ着けるゴンス。そこに至るまでも様々な伏線が張られているのですが、些細な情報がいつ爆発してゴンスを追い詰めるのかをうっすら予想しながら見守る展開がひたすら面白い。



ゴンスの妹が「母さんって恋人がいたのかしら? 占い師さんが『母さんのそばにぴったり寄り添ってる男の人が見える』って言うのよ」とのたまうところ…笑うしかない。ブラックすぎる。



とんでもない1日(A Hard Day)を切り抜けたゴンスは刑事としての職務に復帰。タレコミ情報を元に1人の指名手配犯を追うことに。その男こそ、自分が轢き殺した相手だった。



指名手配犯の自宅を捜索するも、そこに男が居ないことは分かっている。緊張している同僚と、弛緩している主人公。そのギャップで生み出す笑い。



男のアジトから少し歩くと自分が事故を起こした道路のすぐそばである事が分かる。改めて状況を把握しているとそこにパトカーに乗った警察官がやってきて、「ひき逃げ事件の目撃証言がありまして、犯人は被害者を連れ去ったそうです」と言う。



現場に落ちているガラス片を拾い集める警官。ゴンスの同僚は高い位置に付けられた監視カメラに気付く。「あのカメラの映像で何か分かるだろう。早速調べてみろ」と警官に命じる。



焦るゴンス。自分の罪が露見してしまうのではないかという恐怖。まさにサスペンスです。



証拠隠滅に奔走しているとゴンスの元に電話がかかってくる。「おまえが殺した男の事を俺は知っている」「死体をこちらに渡せ。さもないとひき逃げの件を暴露するぞ」



ゴンスの運命を支配しようとする存在がここで登場し、この映画がスリラーになっていきます。



電話の主が何者なのか。その目的は何なのか。恐怖による支配を逃れようともがきながら、ゴンスは解決法を探す孤独な戦いを強いられます。



受話器の向こうから聴こえてきた「敬礼!」という掛け声をヒントに、電話の相手が自分のいる警察署のすぐ近くにいると判断したゴンスは電話ボックスから出たコート姿の男を追います。



男はタクシーに乗り、ゴンスも車で追いますが(迫力あるカーチェイス有)、交差点で立ち止まったタクシーを前に接近することが出来ない。このまま接触してもいいのか? 姿を見せてしまっていいのか? ジレンマ。



ゴンスが車を降りて駆け寄った瞬間にタクシーを発車させる電話男。



この後、この電話男の正体を観客に向けてあっけなくバラす展開がとても斬新。



男は警察署に入っていくと、ロッカールームで制服に着替えます。ゴンスの敵は自分と同じ警察官! 『高地戦』や『ファイ 悪魔に育てられた少年』で幅広い演技を見せてきたチョ・ジヌンが超悪徳刑事チャンミンを演じています。



チャンミンはゴンスに対して死体を返却しろと要求。ゴンスは母親の棺を掘り返して指名手配犯の死体と再び対面。体に残っている弾痕と、男の所有していた携帯電話を発見。一方的に脅迫を受けるだけだったゴンスが反撃体勢に。



この辺から始まるゴンスとチャンミンの駆け引きが見事な深み。裏をかこうとするゴンス、ヤクザの組織力を背景につぶそうとするチャンミン。スリラーの構図に収まらないバチバチな戦い。ふとした瞬間に顔を見せるチャンミンの純粋悪としての資質。



チャンミンがどのような人物なのかが明らかになっていく過程もスリリング。警察官であるチャンミンが○○を着服する手法は今まで見たことがない斬新さです。



終盤になると展開をメモる余裕もないくらい没頭しちゃったわけですが、序盤の何気ない伏線をしっかり生かして上手に駆使してくる手腕は見事。その生かし方がクライマックスのアクションやエンディングの余韻、ストーリー上の整合性につながっていく様は圧巻!



具体的に言えば「壊れたシャワー」を期待通り回収してくれて大喜びでした。



警察官を主人公にしたクライム・サスペンスだけに落とし方も気になるところなんですが、青天の霹靂とも言えるオチを用意していて心底驚愕。しかしそこに至る伏線もちゃんと描いてるから強引とは映らないんですね。



ゴンスの行動を見張っていたチャンミンなのに、なぜ○○しなかったのか?という疑問がいくつか残るものの、技巧に満ちたシナリオにはただただ感服! 爽快な気持ちで映画館を出ました。



犯罪がらみのサスペンスものが好きな方は絶対にチェックしてほしい作品です。都内では5月29日で上映終了、その後大阪でも上映するみたいですが、見逃しちゃった方はDVDでどうぞ!