グリーン・インフェルノ

グリーン・インフェルノ



を見ました。



http://green-inferno.jp/



意識高いアメリカ人学生がトラブルでペルー奥地のジャングルで遭難。食人の風習を受け継ぐ部族に拉致されて食べられてしまう話です。



脚本監督はイーライ・ロス。2005年のゴアスリラー映画『ホステル』で一気に注目された悪趣味全開の映画作家です。役者としても活躍しており、自身の監督作や、クエンティン・タランティーノイングロリアス・バスターズ』などに出演。








イーライ・ロスが目をつけた題材はモンド映画。世界に衝撃を与えた『食人族』を現代風に再構築してみせた今作は、彼にとって2007年『ホステル2』以来6年ぶりの長編監督作品となりました。



構想期間が長かっただけあって、The Green Infernoは本当に素晴らしい映画でした。ハードコアでエクストリームでブラックユーモアに満ちているようなエグい映画なんですけど、シナリオ構成の醍醐味が凝縮しているかのような見事な出来栄えに感動しまくり。思い出すと涙が出そうになります。



どんなに素晴らしいのかを、順を追って読み解いていきたいと思います。ネタバレ注意!!



ジャングルをそろりそろりと歩く足音、フェードインする人間の素足。そのリズムだけで既に緊張感が漂うのですが、その人物は老人と子供。緊張の緩和。フェードインしてくる機械音に二人が目を凝らすと、その先にはパワーショベルで森林をなぎ倒す白人男。



空撮で映された広大なジャングル風景をバックにタイトルロール。THE GREEN INFERNO



ベッドで目覚める若い女性。カーテンを開けて外を見ると、30人ほどの集団がデモ(ハンスト)で環境破壊へ抗議の声を上げている。もう一つのベッドで眠っていた別の女性が目覚めて不機嫌さを表明。「ハンガーストライキ?そのまま餓死してくれればいいのに」



主人公ジャスティンは大学へ向かう途中でもデモ集団を目にする。ギターを弾く男と一瞬目が合うが、ルームメイトのケイシーは彼らへの差別意識を露骨に表す。しかしジャスティンの中にはデモへの共感が生まれつつあった。



こういう脇役を的確に配置する事で主人公への感情移入を誘導するところが巧み。しかし差別表現もリアリティから逸脱していない、ふとしたきっかけで同調に心が傾いたり、あるいは自分の価値観を疑うようになる、そんなバランスの問題に切り込んでいるからこの映画は凄い。



大学の講義でジャスティンはアフリカや中東で行われる女性の割礼習慣について学ぶ。(女性器切除でググろう)



日本で生まれ育った自分としては酷い風習だと思うし同情を喚起させられる描写なんですが、本質を理解せずに安易に批判・糾弾するのはナンセンスなんだと思います。



当事者の女性たちは「国連さん介入してくれよ、こんな風習撲滅してくれよ」って思ってるかもしれませんけどね。



この講義シーンではジャスティンの背景がひとつ明かされます。キャラクターの描き込みも流れに沿った形で提示されるからナチュラル。伏線としても強調しすぎていない。



ジャスティンはデモ隊の一員に誘われて集会に参加するものの、何気ない一言でリーダー・アレハンドロの機嫌を損ねて退席を命じられる。拒絶されたことによって、ジャスティンは自分がデモ隊への参加を熱望していることに気付く。



好意的なデブキャラ・ジョナの口寄せもあってジャスティンはアレハンドロが主導するペルーでの森林破壊抗議デモに参加することに。



企業による圧制の現場でスマホ片手にライブストリーム配信するのが現代的デモ活動。「とにかくカメラを向けて恥だと思わせろ」とアレハンドロは傲慢さが透けて見える姿勢を露呈する。



アメリカを飛び立ってペルー入り。現地でアレハンドロ一行を歓迎するチャラ男・カルロス。彼の用意した小型機で現地へ出発する直前にジョナがジャスティンとツーショット自撮りして浮かれてるカットとか笑えます。



スラムに近い町に到着した一行はレストランで方針を確認。「この先には傭兵が銃構えてるけど、スマホで撮ってやればこっちのもんだから」とか言い始めるアレハンドロ。スマホは銃よりも強し、とでもいうような滑稽な理論を持ち出します。



「え、傭兵この辺にもいるの?」「そんな説明なかったじゃないか」と漏れる不満に対して「帰ってもいいぜ? 最初から強制はしてないからな」と言い放つアレハンドロ。一行を取り囲む空気が一気に重くなる。



物語の流れを作りつつも、各キャラクターの掘り下げを丹念に施していくイーライロス演出。それが後々伏線としてしっかり回収され、うわあ…という胸糞悪い展開を生み出す。素晴らしい。なのであらゆる情報を見逃さないように。



ショボいモーターがついたボートで河を上っていく一行。途中でジャスティンとラーズがトイレに行きたいと言い出す展開は全体の流れや伏線としてはあまり機能していないんだけど、ギャグとしては最高。ホステル2でも観客を驚かせたあのモノが登場します。



伐採の現場に到着すると一行は木々や重機に自分の体を縛り付け仮面を装着。全員がスマホカメラで動画撮影しながらのライブ配信を開始。傭兵たちは銃を突きつけるものの、手が出せない。



ところがジャスティンに配られた南京錠は機能せず、彼女は傭兵に捕らえられます。ただのデモ活動だったはずが異国の地で味わう死の実感。



そこでリーダー・アレハンドロがビシッと一言!「彼女の父親は国連職員だぞ!」「こいつらは国連に銃を向けてるぞ!」



ジャスティンはアレハンドロの言葉に愕然とします。アレハンドロが自分を勧誘したのは、個人の資質を見抜いたからではなく父親の肩書きを利用するためだったからなのです。



地元警察に拘留された後で即座に釈放されるデモ隊。飛行機で強制送還されます。アレハンドロの切り札が功を奏した形で、動画配信への反響は爆発的。「CNNがリツイートしたぞ!」などと喜ぶデモ隊連中。



その中でジャスティンは喪失感とアレハンドロへの恨みで沈痛の表情を浮かべている。アレハンドロは悪びれる事もなく勝利の歓喜に浸っている。



しかし彼らの乗っている飛行機のエンジン部分から発火し、大混乱の最中で見事に墜落。この墜落描写の中だけでも色んな死に方を見せてくれるイーライロス、信頼できる男です。



生き残った面々は全身にカラーペインティングを施した謎の部族によってあっという間に捕縛され、部落へと連行されていきます。大人も子供もジジババも大喜び。見方によっては大歓迎されているようにも見えるところが面白い。



こういった少数民族を保護するためのデモを行ってきたはずの一行とはいえ、言葉がまったく通じない相手にはどんな理屈も通じない。



ニワトリや豚と同じオリにぶちこまれる一行ですが、衰弱状態のジョナだけはオリに入れられない。彼は部族が差し出す液体を飲み干す。「Thank you...Thank you...」



台に乗せられて両手両足を子供たちによって拘束されたジョナ。恐怖に狼狽する彼の元に近付く隻眼の老婆(族長)。指先でジョナの眼球をほじくりだし、そのまま自分の口に放り込みます。



この瞬間、観客はこの部族が人食いの習慣を持っていることを知ると同時にグリーンインフェルノが「そういう映画」なんだという事実に直面するのです。実際のところ観客の95%は「この瞬間」を見に来ているとはいえ。



族長は特権である目玉食いを2度行った後でジョナの処分をスキンヘッドの男に任せる。まだ死なせてもらえないジョナは生きたままナタで右腕を切断される。



続いて右脚、左脚、左腕とぶった斬られていくうちにジョナは絶命。最後は首を落とされ、雑な解体ショーが完了。



それを見ていたジャスティンたちは絶叫の大合唱。アレハンドロは絶句しています。



解体の前後(どっちだっけ)に、族長が「神からの恵み物だ!」と快哉の雄叫びを上げるのですが、この映画で部族が話す言葉に字幕テロップを入れる必要は無かったと思います。最後まで何言ってるかわからない(けどなんとなく分かるから怖い)という体裁を保ってほしかった。



ジョナの肉体はテキパキと解体され完全に食材として扱われます。胴体からは内臓が取り出され、土釜でロースト。腕や脚には下味として塩が塗り込まれていきます。



ジャスティン達の視点から見ると「自分達を食べようとしている非道い奴ら」なんですけど、部族民の表情はあくまでもピュアで、狂人じみた演出はまったく為されていません。



調理してる姿や人肉を食らう様子からは、神の恵みをありがたくいただこうという感謝の気持ちすら伝わってくるのです。この辺りが単なるホラー映画の枠を超えた凄みや誠実さを今作に感じるゆえんです。



ジャスティン達の生き残りは5人。なんとか脱出しようと策を巡らせるわけですが、アレハンドロは無気力。



アレハンドロが諦めモードになるにはちゃんとロジックがあって、結果的に色んな意味でのクズ野郎に変貌するところがマジで最高!!



仲間全員から三行半を付きつけられてもなお魅力を放ち続けるこのキャラクターは素晴らしいです。是非皆さんも映画館で彼のクズっぷりを堪能してください。想像を絶するクズです!



このままじゃ全員食われるぞどうする?というシチュエーションからどのような展開を盛り込むのか。最後までテンポが良く無駄のない構成には本当に感動。イーライロス6年ぶりの監督作ともなれば気合いが違う!



飛行機事故というアクシデントによってもたらされた惨事というのはちょっとズルい気がしていたものの、そこに関しても理由がちゃんと提示されるところが本当に見事。そこをクリアしてるとこの映画は本気でスキがない。



オリに入れられたデモ隊連中を見張ってるのがたった一人のおっさん(吹き矢持ち)というところは緊迫感を殺いでいる感あるけど、それを相殺する結果を用意してるからバランス感覚も秀逸。



書き方が急にぼんやりとしてきたのは、この先の展開をこういう場に書きたくないからです!



序盤のネタフリがどういう形で結実するかをしっかりと見届けてほしい!言うなれば「誰が、どんな死に方をするのか」を見てイーライロスの感性と向き合ってほしい!内容は悪趣味ですけど、とにかく脚本が緻密。



一人くらい○○する奴が出てもおかしくないけどどうなるかなー?と予測していたら、その期待にきっちり応えた上でこちらが及ぶべくもない創造性に満ちた展開を見せてくれるのです。感服ですよ。



あのキャラクターが味わった「食われるかもしれない」以上に深い絶望の描写や、とあるアイディアで危機を乗り越えようとした結果示される「バチが当たった」感。



ただの露悪趣味だけでは描けないレベルのキャラクター造形に深く感動しました。



異国で大地震に巻き込まれたら人はここまで追い込まれる、という題材のパニック映画『アフターショック』もイーライロスらしい技巧がてんこ盛りの脚本だったのですが、グリーンインフェルノはアフターショックを凌駕する完成度だと思います。



うわあ…と思わず口にしてしまうような胸糞悪い展開が続くグリーンインフェルノですけど、嫌悪感をより深めるためにイーライロスが見せる手腕は文句なしに一級品。まだまだ、もっともっと胸糞悪い映画を世界に放出し続けてほしい! この映画マジでオススメ!!