The Insider

 マイケル・マン監督作品『インサイダー(The Insider)』を見ました。1999年の作品。
 マイケル・マンといえば超傑作クライム『ヒート』で有名ですが、その次に描いたのが報道という戦場。主人公のテレビマンを演じるのがアル・パチーノ
 タバコメーカーからの内部告発を受けたバーグマン(アル・パチーノ)は元開発部長のワイガンド(ラッセル・クロウ)と接触してインタビューを試みるが、養うべき家族や守秘義務契約といった重圧がワイガンドを苦悩させる。
 数兆円規模のタバコ産業を根底から揺るがす告発をいかに秘密裏に実行に移すかをじっくりと描く。信念を持った主人公がジャーナリズムの名の下に突き進んでいく様がとにかくカッコ良いので見応えたっぷりですね。キャラクター描写も丁寧でリアル。
 映画秘宝EX 映画の必修科目04 クライム・アクション100 (洋泉社MOOK)というムック本経由でこの映画を知ったのですが、犯罪に対するアクションを起こす人々という意味ではこの作品も立派なクライム・アクション映画だと思います。
 タバコ業界のウソにまみれた腐れっぷりを語ったインタビューを収録→公判でタバコの中毒性について証言→インタビューを放送という流れで、公判での証言を無事に終えたところでハッピーエンドな空気になるのですが、ここからがこの映画の面白いところ。
 巨大企業からの圧力を恐れるがあまり報道姿勢に弱腰になるテレビ局。それに反発するバーグマン。長年タッグを組んできたニュースキャスターさえもテレビ局のスタンスを支持し、孤立する。ここの描写、アル・パチーノの演技は素晴らしいです。テレビ局の方針を冷淡に命令する女上司がすげームカつく描かれ方で感動的でした。ワイガンドの妻も告発に挑む夫の立場を理解せずにメソメソ泣いて離婚しちゃう。女キャラが障害でしかないところはフェミニストから見たらプンプン丸でしょうけど、面白かった。
 ニュース番組を降ろされても諦めないバーグマン。彼が報道者としての信念を見なおしたのはここからかもしれません。最後まで放棄するべきでない、人間だけが持ち得る「芯」というものの重要性を見せつけられたような気がします。
 巨大企業の利己主義に押しつぶされる人々。その中でもがき、抵抗し続ける1人のジャーナリスト。告発したワイガンドからの信頼も失い、意気消沈しかけるのですが、それでも戦い続ける。一人の人間の意地を見誤った組織が結果的に決定的な損失を背負う。この構図は痛快ですよね。
 必死の思いで辿り着いた「ジャーナリストとしての正解」がもたらしたのはごくわずかな人々からの微かな賞賛。そんな結末をどう感じるかはあなた次第。