Boogie Nights

 ポール・トーマス・アンダーソン監督作品『ブギーナイツ』を見ました。
 "The Master" でベネチアを席巻したポールトーマスアンダーソン。チルもようやく彼の作品をチェックし始めたのですが "There Will Be Blood" "Magnolia" 等を見てもいまいちハマってません。"The Master" に至っては芝居の重み以外に映画的な気持ち良さをまったく感じられなかったので憤慨したほどです。(見た直後のツイート)
 "Boogie Nights" は1997年の作品で、タランティーノ曰く『1992〜2006年のベスト20』に食い込む作品だそうです。
 1度サラッと流し見してみたら展開がわけわからない方向に転がっていったので、改めてちゃんと見てみました。
 何のとりえもない田舎者エディが股間にぶら下がるジャイアントなコックに目をつけられてポルノ男優としてスカウトされ、トントン拍子で栄光をつかむ物語。エディ=芸名ダーク・ディグラーは実在したポルノ男優ジョン・ホームズからインスパイアされたキャラクターみたいです。ホームズのコックは平常時で22〜25cmだったそうです。怖いよー。
 ダーク・ディグラーとして初めてポルノを撮影するシーン、現場にいる全員が彼のデカさに注目する演出はなかなかの精度で笑えるんですが、その前にスカウトされる瞬間の描写は理解に苦しむなあ。ポルノ界の巨匠がエディに目をつけるきっかけが描かれてない気がします。
 中盤までは持たざる者エディがジャイアントコックを引っさげて出世街道を突き進む快感が描かれます。こういう気持ち良さって映画にありがちといえばありがち。なぜか『スカーフェイス』を思い出しました。
 エディが何故スターになったのかという部分はもう少ししっかり描いても良かったかなと思います。初めての撮影で完璧なファックシーンを演じたエディ。カットがかかった後でスタッフが「中でいっちゃったから射精シーン撮れてないよマズイよ」とか言ってるのを聞いて「もう1回やりましょうか?(キリッ)」と言い切るエディの面構えをズームで強調するところは笑えました。
 エディ以外のキャラクターも無駄にしっかり描かれているのでこの映画は群像劇といえるんでしょうけど、群像劇をやろうとしてる意識がすごく見えてしまって未熟な印象。「ポルノに関わっても幸せになんかなれないよ。ましてやドラッグに逃げれば不幸一直線だよ」というシンプルな主張を群像劇という形で厚み持たせてるように見えなくもない。伏線も浅いのでとってつけたような感じ。
 終盤になると天狗になったエディ(ダーク・ディグラー)が暴走するのですが、その後の展開もとってつけた感じで・・・持ち上げるだけ持ち上げたキャラを「さてここからどう落とそうかな」ってオチだけ考えたような。
 具体的には「歌手デビューを図ってアホみたいな歌謡曲をレコーディングするものの、出来上がった原盤を買い取る金も無いので製造元から追い出される。同時期にドラッグにおぼれ、金に困ってコカインの売人をだまそうとして・・・」という展開。エディや他のキャラの周囲に死神が急に登場する。映画のストーリーに意外性って大事ですけど、唐突すぎて旨味を感じられないです。
 タランティーノの『パルプフィクション』は「唐突な展開」の代名詞みたいな映画ですけど、あの映画は作品全体に漂う緊張感に統一性があると思うんですよね。ブギーナイツは終盤の展開につながる前フリが不足してる感じ。
 ポルノに出演していた黒人俳優がステレオに対する愛情を貫き続けた結果、自分の店を持ててハッピー! …というラストも、ケーキ屋に行ったところで強盗に遭遇して、店員と強盗犯と客が全員死亡して漁夫の利で店の売上を持ち逃げした結果なんですよね。強引すぎねえか、と。
 こういう強引さに目をつぶればハマれるんでしょうけど、個人的には未熟な作家性としか受け止められなかったです。チルにとってのポールトーマスアンダーソンは現在に至っても未熟な作家だと位置づけているので、世界中で絶賛されている以上は、どうやってもハマらない監督なんだと諦めて回避するしか無いですね。
 というわけでブギーナイツ、チルからはオススメできません。