End of watch

 映画館で『エンド・オブ・ウォッチ』を見てきました。もうすぐ公開終わっちゃいます。
 監督のデヴィッド・エアーはデビュー3作目。脚本に参加している『トレーニング・デイ』が有名。デビュー2作目が『フェイクシティ〜ある男のルール』。ノワールの巨匠ジェイムズエルロイの原案をうまく活かしたクライムでした。オチが弱いけど。
 さて"End of watch"。タイトルからしてなんとなく「暗いラスト」が予想できてしまうわけですが、実際のところ隠語でそのまんまな意味らしいです。調べるとネタが分かっちゃいます。
 警察官が自分の日常をビデオカメラで撮影・記録したという設定なのでPOV風のカメラワークが多いのですが、ちゃんと映画としてまっとうな視点・カメラワークもあります。手持ちカメラ感を強調したドキュメンタリー風味が強いですが。
 警察官がパトカーに乗ってパトロール。無線で指示を受けて現場に向かい、様々な状況に対応する様子をリアルに描く。主人公はジェイク・ジレンホール(ギレンホール)。(彼が主演の『ミッション:8ミニッツ』はオススメ)パートナーはマイケル・ペーニャ。この2人のパートナーシップをグイグイ描いていく映画です。
 アヴァンタイトル(題名が表示される前に描かれるシーン)はパトカーの車載カメラで撮った映像だけで構成されていて、つまりはカーチェイスです。最後は銃撃戦で犯人をKO。車載カメラだけなのでフォーカスで強調できず、結果的にあっさり感が強いんですけど、「車載カメラだけでオチまで描く!」という意思はしっかりと伝わってきます。
 主役の2人はほとんどの場面で銃を抜かざるを得ず、緊張との戦いを強いられます。一般住人も銃を持つのが当たり前のアメリカ社会。LAの中でも一際ヤバい地域なのでなおさらです。
 しかし2人は仕事上のプレッシャーを自前の明るさではねのけ、いい意味での正義感を常にキープしながら仕事に励みます。仕事への疑問を抱いたりする描写は一切なし。彼らが悩む理由は彼女と結婚するかどうかだったり、子供の将来の事だったり。とことんポジティブな生き方を貫いてます。
 だからこそ、クライマックスでの落差が強調されるわけです。
 アングロサクソン(ジレンホール)のカップルとメキシカン(ペーニャ)のカップルとの間で生まれる根本的な価値観の違いが任務の合間にかわされる会話の中で表現され、徐々に融和していく様子を描く技量は素晴らしいと思いました。
 主役2人の幸せ指数はクライマックスに至るまで上昇線を描き、唐突に墜落します。警察系のクライムものでよく見られるのが「仕事は順調だけどその半面家庭はうまくいかない」という構図ですが、この作品における彼女および嫁さんは警察の仕事を十分に理解して、決して主役たちの邪魔をしません。警察官の妻への敬意をきっちり描いた脚本だと思います。
 主役2人は何気ないパトロール活動の中で地元のギャングからの恨みを買い、最終的にアサルトライフルで襲撃されます。主役側が知るはずのないギャング側の描写も作品全体に挿入されているので、観客は主役たちほど呑気に構えていられず、終盤に至るにつれて緊迫感が高まっていく構成になってます。しかしギャング側の人間も普段の生活をビデオカメラで録画しているという設定は無意味だったかなと思います。
 クライマックスの銃撃シーンはFPS(ファーストパーソン・シューティング)ゲーム風の描写もあったりして、臨場感がとんでもないです。主役2人は拳銃しか持っておらず、アサルトライフルを持って殺す気マンマンのギャングを前に選択できるのは「逃走」の一手のみ。
 どんな結末を迎えたかは劇場あるいはDVDでご確認ください。
 巨大な陰謀に飲み込まれるとか、身内のせいで致命的な状況に陥るとか、そういう意味でのスケール感はありませんが、警察官としてのリアルな日々の末に至る結末という構成はとても斬新です。こういうブレイクスルー的な新しい試みを評価する地盤があるのはアメリカ映画界の凄いところ。
 監督の手腕も見事で、無駄が少ない。脚本と監督を兼ねるデビッド・エアーの作家性が存分に発揮されている作品でした。6日間で書き上げた脚本で、そこから1年ちょっとで完成した映画だそうです。凄すぎる。
 今まで見てきた警察映画の心地よさを期待すると肩透かしを食らうかもしれませんが、虚飾の多いフィクション感に背を向けたリアリティ重視のクライムっぷりは、映画史に影響を及ぼすであろうと思います。面白かった!