Trance

 ダニー・ボイル監督作品『トランス』を新宿の映画館で見ました。
 あらすじはというと。美術品を扱うオークション会場を強盗犯が襲撃。主人公はマニュアル通りに金庫に絵画を隠そうとするが、隠す直前に犯人に見つかり殴打されて気絶、絵を奪われる。絵の強奪に成功したと思った犯人グループだったが、カバンに入っていたのは額縁だけ。絵の在処を聞き出すために犯人は再び主人公に接触する・・・
 以下ネタバレ。
 記憶喪失と催眠術という二種類の反則技を駆使したシナリオは全面的には受け入れがたい。絶賛しにくい。
 しかしそれをふまえても、オチの切れ味は鋭いと言えます。精神科医に執着していたストーカーが記憶を失ってエセ真人間になる。偶然から精神科医と再会した主人公は次第に執着心を取り戻して醜悪になっていく。
 記憶喪失の末に拷問を受けるという「同情の対象」だった主人公が変貌していく展開は主演のジェームズマカヴォイにとっても演じがいのあるものだったでしょう。パーソナリティの変化は長編映画にとって必須のものなんでしょうね。いまさらながら。
 このシナリオの弱点は前半の会話過多。けっこう寝ちゃいました。主人公が記憶を取り戻した結果、大いなる絶望が待っているという展開は想像の範疇ですが、カラッとさわやかなオチを用意することで感動を付与。ダニー・ボイルならではの編集によるたたみ掛け感も凄い。
 しかし冷静になると、そんなポップな終わり方に到達して良いのか?という気もします。展開のどす黒さとラストの白さがギャップありすぎ? でもトレインスポッティングしかり、スラムドッグミリオネアしかり、ラストの空気を大事にするのがダニー・ボイルなのかな。