ドラゴンクエスト用プロット『民意の抜け道』

 2013年11月からスクウェア・エニックスドラゴンクエストシナリオライターを募集していたので応募するために書きました。お題は「脱出物語」。9つ提示されたキーワードの中から3つ以上を選んでシナリオに組み込む、というルールでした。
<企画意図>
 
 脱出物語という主題に対して、脱出劇の主役をドラクエの主人公にするのではなく、別の人物の脱出にスポットを当てた方が展開に広がりを持たせられると考えました。
 抑圧された環境からの→脱出という流れは、それを成したのが主人公であれ第三者であれカタルシスを得られますが、「脱出を防ぐために奮闘する」という逆の視点から描いた脱出物語があっても良いのではないかと思い、「脱出の幇助」と「脱出の防止」をほぼ同時に依頼されるクエストという発想に至りました。 
 脱出の成功/失敗を目にしたプレイヤーは、逆の立場からも挑戦したくなること必至です。プレイヤーがどちらに加担したか、依頼を成功させることができたのか…それらによって王国の未来が左右されます。ロールプレイングゲームの醍醐味を味わえる脱出物語です。
 
<展開>
 
 とある王国に初めて訪れた主人公一同。到着した直後、主人公たちの目の前で1人の女性(リザ)が衛兵に囲まれ、逮捕されていく。(女性への同情を引き、王国による統治が横暴であるような印象を与える意図)。 主人公一同は街でリザについての情報を聞きこむが、市民の回答はいまひとつ要領を得ない。 (活動家としての一面に気付くのはもう少し後)
 王城に赴くと、衛兵はピリピリしていてとても歓迎ムードとは言えない。身分を疑われて主人公たちの逮捕さえも匂わせる剣呑な空気。(圧政を印象づけるミスリード)
 それでも主人公一同は国王への謁見を許可される。国王から街中で起きた逮捕劇について聞き込もうとすると、側近の大臣が怒りを必死に隠しながら答える。逮捕されたリザはクーデターを起こそうとしていた、民主化の噂だけでも隣国との関係に悪影響だ! などと逮捕の正当性をまくしたてる。(この段階では国王の存在感が薄い)
 王城を出たところでとある男(フィンチ)から接触を受ける主人公一同。フィンチは自分が国の民主化を進める組織「空色のスカート」の一員であることを明かす。男は国政がいかに醜悪で非効率的であるかを熱く語り、組織のトップにいた女性の奪還計画に協力してほしいと持ちかけてくる。この段階で奪還への「協力を了承する」か、「保留or断る」かによってシナリオが分岐する。
 
(奪還に協力) 
 王城では年に1度行われる隣国との懇親をはかる舞踏会が目前に迫っている。空色のスカートはその会場に来賓への攻撃を予告する手紙を送りつけ、混乱させている間に王城の内部構造を調査して奪還の準備を進めようとする。
 主人公たちは王城に潜入してフィンチが欲しがっている情報を入手する役目を任せられる。城の構造や常駐する兵士の規模、警備体制など。
 後日、潜入経路からリザ奪還を図る本命部隊と派手に立ち回る陽動部隊に分かれて作戦開始。 主人公たちは奪還を任せられる。「奪還の際に想定外の問題があった時のために」とフィンチから1匹のねずみを託される。
 何度か戦闘を行いつつ、監禁されていた牢獄のところにたどり着くも、リザはいない。(隠し部屋に移されている。)そこで予想していなかったボスモンスターが登場し戦闘となる(ゴーレム系?)。
 ボスを倒したところでねずみが走り出し、隠し通路を探し当てる。このねずみはリザが飼い慣らしていたもので、リザの吹く口笛の音を聞き付けてリザの元へ主人公たちを導いてくれる。リザの奪還によってクーデターまがいの一夜が幕を下ろす。
 
(奪還を阻止する)
 フィンチからの接触の後で国王から呼び出しを受けた主人公一同。舞踏会を狙ったテロ行為の犯行予告が届いたことで、王国側はなりふり構っていられなくなり、主人公たちにリザの周辺警護を依頼する。
 舞踏会は表向き滞りなく終わる。主人公たちは改めて王城の構造を確認した上で、襲撃に対応するための衛兵とパーティの配置などを決める。奪還阻止ルートでは空色のスカートが毒物や魔法を駆使して兵力の無力化を図ってくるので、ザメハやキアリーキアリクといった状態回復魔法の使い手の配置、回復アイテムなどの備蓄が重要になる。
 舞踏会から数日後、空色のスカートの襲撃が始まる。何度かの戦闘を乗り越えていくうちに警備部隊が押し込まれ、フィンチら主要部隊が牢獄に到達するも、リザはいない。王城側の切り札だったボスモンスターが暴走し、主人公パーティに襲い掛かる。
 ボスを倒すと、その場に突如現れたねずみが隠し通路を探し当てる。主人公一同はリザと初めて対面し、クーデターがフィンチの独断によって行われたこと、空虚なイデオロギーの元で失われていった命への懺悔を聞くことになる。
 
<結末とオチ>
 
 どちらかの依頼を受けた直後(後戻りが出来ないタイミング)に、フィンチ(もしくは大臣)の何気ないつぶやきで「あれ? この依頼者って大した思想もないダメ人間なんじゃ?」とプレイヤーを疑心暗鬼に陥らせる。
 フィンチは現国王の隠し子であり、個人的な復讐心を満たすために民主化に熱を上げている。民主化によって国の未来が良くなるかどうかは彼にとって大した問題ではない。
 大臣は王族が絶対的な力を持つ現体制にひそかに不満を抱いていて、王族の存在を蔑視しているような発言を漏らす。
 リザの奪還に成功すると、急速に民主化が進む。やがて、宿屋の宿泊料や武器屋・道具屋の物価が劇的に上昇し、主人公たちにとっては立ち寄りづらい街になってしまう。しかし人々は民主化以前よりも幸せそうな様子である。もしかして民主化しない方が良かったんじゃ? と思わせるのが狙い。
 リザ奪還阻止ルートでは、存在感の無かった国王がリザに惚れ、リザを新大臣として抜擢するという不条理な結末を迎える。