RoboCop

2014/04/01、Tジョイ大泉にて『ロボコップ』を見てきました。

 毎月1日のファーストデイ、時間を持て余していたので映画を見に行こうかなと思い作品選び。いくつかの候補からジョゼ・パジーリャ監督のリブート版ロボコップを見ることにしました。

http://www.robocop-movie.jp/

 ジョゼ・パジーリャはブラジルの映画監督で、2007年製作『エリート・スクワッド』にてベルリン国際映画祭金熊賞を獲得した実績を持ちます。

 『エリート・スクワッド』および、その続編『エリート・スクワッド ブラジル特殊部隊BOPE』は個人的にも大好きな作品です。レビュー書くためにまた見ないとなあ。

 さて、パジーリャさんのハリウッド進出作ロボコップ。ロボなコップという設定だけを踏襲した上で構築し直した(リブート)映画です。

 オープニングはニュース番組で熱弁をふるうキャスター=サミュエル・L・ジャクソンのソロショットからスタート。二足歩行型や人間型の治安維持用警備ロボットをアメリカにも配備すべき!という持論を展開。このキャスターキャラは本編に一切からまないままシーンの合間に登場し、ニュース番組の撮影をしている体で狂言回しポジションを貫きます。

 主人公の刑事マーフィはデトロイトのギャングに渡っている銃器の出処を探っている。信頼できるのは相棒だけで、上司の圧力にも臆さず独自の捜査も辞さない。キャラクターとしては新しくないです。

 同僚を信用できないマーフィは相棒と共に内偵を進めギャングのボスと対峙するも、ボスの元へのタレコミで正体がバレて銃撃戦に突入。この銃撃戦はかなりの迫力。FPSっぽい視点も取り入れたスピーディな描写に痺れました。さすがパジーリャだなと。

 でもアクションでおおっ!となったのはここがピークだったような気がしますね。

 銃撃戦でマーフィの相棒は瀕死の重体になり、その後マーフィも自宅をギャングに突き止められ、爆破によって体の大部分に重い火傷を負います。

 マーフィがここに至るまでに、警備ロボットをアメリカに普及させたがっているオムニコープという企業の思惑が並行して描かれていきます。ロボット・ドローンによる治安維持に抵抗を示すアメリカの世論を動かすために、ロボットに「人間味」を取り入れようとするオムニコープ。

 攻殻機動隊で言う「義体」化の権威である博士(ゲイリー・オールドマン)を会社に迎え、人体と治安維持ロボットの融合を目論みます。ロボコップ誕生の経緯をできるだけリアルに描く脚本はまるで『ロボコップ・ビギンズ』です。

 そこに良いタイミングで殺されかけたマーフィの情報が飛び込み、オムニコープにとっては金の成る木にしか見えないわけです。この辺の展開には臓器移植や延命治療の是非といった裏テーマが描かれているような気がします。

 マーフィは頭部と気管と肺と右手だけを残し、他の部位すべてが義体化。事態を飲み込むのに時間がかかるものの、警察官としての職務に復帰することを決意。妻・息子とも再会を果たして再起への熱意を燃やす。ロボコップなマーフィを見て恐怖を隠せない息子が「ホッケーの試合のビデオ見る?」と切り出す瞬間は泣けました。

 警察署にズカズカと(ヴインヴインと)乗り込んで復帰宣言した際に、重体から復帰した相棒(黒人)が「これで肌の色もパートナーだな」と言うセリフもグッと来ました。

 ロボコップお披露目記者会見の直前、警察のデータベース上にある犯罪者記録や防犯カメラ映像との同期を図るのですが、一部の情報がマーフィのトラウマを引き出して感情の制御ができなくなる。応急処置として血液中のドーパミン量を極限まで減らされ、データベースとの同期のために人間性を犠牲にさせられてしまう。家族と会っても反応を示さないマーフィ。

 この辺りの流れが綺麗で、ロボコップというキャラクターの悲哀をうまく描いていると思います。ロボコップが犯罪を撲滅しまくる爽快感と、マーフィと家族との関係が悪化していくことで生まれるサスペンス性。並行する2軸が良い緊張感につながっていると思います。

 巨大な悪を提示して、一度挫折した主人公がそこに向かっていく! という構図は無いので物語のゴールが見えづらくなってますが、先が読めないという意味で良い方向に転がっていると思います。

 犯罪撲滅のため機械的に邁進していたロボコップでしたが、マーフィとの面会を許されない妻が痺れを切らす。彼女がバイクで現場に向かうロボコップの前に飛び出して情に訴えると、ロボコップのデータ処理順位に変化が生まれます。自分と家族を引き離した爆弾での殺人未遂事件の首謀者であるギャングを再優先で検索し、復讐心が芽生え始めるのです。

 この復讐心は、警察本部でロボコップの捜査活動をモニタリングしている様子によって表現されているのですが、主観性がない遠回しな描写が斬新で面白い。

 ギャングボスとの対決は照明を落とした工場での暗所対決だったのですが、ロボコップ相手に暗くして戦う意味ないだろ!と感じました。映像的なカッコ良さ的にも、整合性の面でも残念なシーンでした。

 武器の闇売買がデトロイト警察内部への汚職に発展。ロボコップが銃をギャングに横流ししていたクズ刑事をとっちめると、汚職を容認していたのが警察トップの署長であることが分かる。署長にもテーザー銃(スタンガン)を向けるロボコップですが、暴走とみなされて遠隔操作で強制シャットダウンされてしまう。

 感情の制御が出来なくなった(=人間として当たり前の状態に戻った)ロボコップはオムニコープにとって邪魔な存在となり、廃棄処分の決定が下される。ロボコッププロジェクトを率いていた博士は倫理面で納得ができず、ロボコップを解放。遠隔操作用の受信機も外されたロボコップは自由の身に。

 この段階で主人公マーフィ=ロボコップの最終目的が「妻・子供との再会」に設定されます。そこに「妻を連れて逃走しようとしているオムニコープの社長(マイケル・キートン)をしばく」という副目標が付随。ロボコップは警備ロボットや警備兵を倒して妻との再会を目指す!

 クライマックスのアクション、映像的には大したことが無いし斬新なアクションにも乏しいのですが(ロボットの下敷きになった左腕をサブマシンガンで撃って切り離す描写はちょっと驚きました)、シナリオ的には複数の伏線がしっかり効いてきて熱い展開になってます。

 序盤に出てきた「赤く光るリストバンドを装着している人間はロボットから攻撃されない」という設定によって警備部長(イヤなやつ)に追い詰められたロボコップの窮地を、刑事時代のパートナー/相棒が救う場面…熱いっすね!

 ビルの屋上でヘリに乗ろうとしているオムニコープ社長および自分の家族と対面したロボコップ。再び「赤いリストバンド」のせいで銃口を社長に向けられずに苦しめられるのですが、意思の力で無理やり右腕を持ち上げ、マシンガンで射殺。このひねりのないオチはちょっとどうかと思いました…

 ラストシーンはニュース番組で放送禁止の悪態をつきまくるサミュエル・L・ジャクソンで終わります。このキャラのインパクトを考えるとリブート版の続編があってもおかしくないですね。ロボコップというキャラクターにはそれほど可能性を感じないのが正直なところです。

 監督のジョゼ・バジーリャはポール・バーホーベン版『ロボコップ』の肝であるバイオレンス描写にこだわりたかったようですが、そういう表現は控えるように言われたとか。しかしシナリオ展開の上手さで能力の高さを証明していると思います。

 ずっとハリウッドの一線でやっていきたいタイプの作家ではないっぽいので、近い将来しっかり芯のある映画を作ってくれるでしょう。今回のリブートにおける仕事っぷり、かなり勉強になりました。