Hesher

 スペンサー・サッサー監督作品『メタルヘッド』を見ました。原題は"Hesher"。最初に見たのは2013年3 月なのですが、改めて見てみたらやっぱり面白いので改めて感想を残します。

  主人公TJはいじめられっこ中学生。無気力に日々を過ごしている。様々な事がうまくいかない。ムカついた拍子に空き家のガラス窓に石を投げて割ったとこ ろ、その家に不法滞在してたメタラー野郎にシメられ、つきまとわれることに。

  そのメタラー野郎・Hesherを演じてるのはジョセフ・ゴードン=レヴィットインセプションとかダークナイトライジングとかルーパーに出てる人気 者。(彼が超若手時代に出演してる『消された暗号 BRICK』って映画はオススメ)

 HesherはTJの生活に堂々と踏み込み、父親&祖母の暮らす家に勝手に住み着く。この傍若無人っぷりが不快感につながらないのは、主人公TJとその父親が生きる気力を失っている設定に対し、Hesherがエネルギッシュに生きているから。

  リビングのテレビで見られるチャンネルが少ないからといって電線によじ登ってポルノチャンネルを違法視聴したりするHesherの理不尽さに対して、TJ と父親は不満の声を上げられない。なぜなら2人はトラウマから脱却できずダメージを背負っているから。Hesherの理不尽さと、それに困惑するだけの TJ親子。このギャップが笑いを生み出しているんですね。

 キャラクター描写と展開が巧くて牽引力ありまくり。「つかみ」の巧さにこれほど感心した作品はなかなかありません。

 もう1人、TJの人生に関わってくるのがスーパーでレジ打ちをしている冴えないアラサーメガネっ娘。演じているのはナタリー・ポートマン。彼女もまた自分の人生を謳歌できずにいるのですが、Hesherの理不尽さに振り回されていきます。

  Hesherというキャラクターは作中で常に浮いていて、欲望のおもむくままに行動し続けるわけですが、この描き方はまるで「実在しない幻を潜在意識が具現化した」みたいな感じなんですよ。トラウマが生み出す二重人格ってよくあるネ タですけど、そこを意識させるよう意図的に描いている印象も受けます。

 終盤にHesherがTJを大きく傷つける展開があって、いよいよTJはその場面でブチ切れて暴れるんですが、それを見たHesherが戸惑ってシリアスになるところも面白いですね。

 TJは父親と共に婆ちゃんとも同居しているわけですが、この婆ちゃんが良い味出してるんですよ。ちょっとボケ気味で、異分子であるHesherの存在を素直に受け入れてしまう。

  Hesherはこの婆ちゃんにすごく親切。「明日の朝、散歩に行かない?」と言い出す婆ちゃんに対してそっけなく断るTJと父親を見たHesher は「学校なんて行ってねえで一緒に散歩しろよ!」とキレます。一見すると理不尽な言い分なんだけど、婆ちゃんの 孤独感をしっかり描いてるだけにHesherが正論言ってるように見えるんですよね。

  個人的に「婆ちゃんネタ」にはすごく弱いのでラストの展開には泣きました。Hesherが缶ビール片手に説教するシー ンはマジで最高です。

 ハリウッドスターが出ているものの、全体的には地味な画が続く超低予算な映画。それだけに自分も見習うべき部分が沢山発見できた作品でした。とにかく脚本がよく出来てる映画なのでレンタルできる方は是非ご覧あれ。