The World's End

 2014-04-12、渋谷シネクイントで『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』を見ました。

http://www.worldsend-movie.jp/

 監督エドガー・ライト、主演サイモン・ペッグ、助演ニック・フロストの最強トリオが再び集結! なにがなんでも見に行かねばなりますまい。

 イギリス出身のこのトリオは、2004年『ショーン・オブ・ザ・デッド』でジョージAロメロが描いてきた正統ゾンビ映画をコメディに転化し、2007年『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』でハリウッド製ポリスアクション映画をイギリスの田舎でどう再現するかという革命的なコメディとして仕上げてみせました。

 一見してパロディなんですが、題材の選び方にセンスを感じさせるし、それをイギリスの地方都市や田舎でやることで新しさや風刺性を付け加えてるんですね。

 なんといってもシナリオが巧くて面白い。ギャグを盛り込むテンポも伏線の使い方もこ憎たらしい。エドガーライトとサイモンペッグがコンビで脚本を書いているのですが、とても利にかなってる。 もちろんテーマのための技術ではなく、面白さ・笑いのための技術なのです。

 エドガー・ライトは2010年に『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』という超すんごいアクションラブコメを撮り、サイモン・ペッグニック・フロストの名コンビは『PAUL(宇宙人ポール)』という作品でアメリカ進出。監督に左右されない普遍的ギャグセンスを見せつけました。はっきり言ってどの作品も面白いです。ハズレ無し!

 今回のワールズ・エンドで6年ぶりにトリオが勢揃い。「おっさんがはしご酒する映画」という無謀なネタで世界を挑発してきやがりました。

 以下ネタバレ。

 今作は、サイモン・ペッグが周囲の可笑しさに違和感を覚えるツッコミ役という「コルネットシリーズ」の慣例を壊し、主人公が一番のボケ役になっています。

 主人公ゲイリー・キングは40歳を越えてなお社会に適合できないダメおやじ。学生の頃に挑戦した「12軒連続ハシゴ酒」というムチャを再び実行しようとするのですが、あの頃の仲間たちは全員がまともな仕事に就いており、エコノミックアニマルとしてのまっとうな生活を歩んでいます。

 彼らをどうやってバカ騒ぎに巻き込むか、ゲイリーと、エドガーライトの腕の見せどころです。

 旧友たちの中で一番マジメで「攻略」が難しいのがニックフロスト演ずるアンディ。これは過去のシリーズでアホキャラダメキャラに徹してきた彼のイメージを逆手に取っています。大人しい彼が何をきっかけにして「復活」するのか、そこに至る経緯も綿密に計算されている。

 特にエドガー・ライトは伏線が大好きな人で、大小問わずにたんまり盛り込んできます。オマージュが観客の長期記憶をくすぐる行為だとすれば、小道具やキャラ描写、小道具大道具などの「映画を見ている間に印象的だった要素」を使った伏線処理は短期記憶をくすぐって足した面白さなんですね。

 町山さんの解説によれば無数のオマージュが組み込まれているみたいですが、そんなの分かんなくたって全然面白い! 伏線処理や、もっとシンプルな形で表現されているテンポの良いギャグ、アクションが本当に見事で…見ていて呆気にとられる場面もしばしば。

 予告編にあるように、目と口を光らせた人ならざるものとゲイリーら5人が戦いを繰り広げるのですが…今回はアクションシーンも最高!!

 『キック・アス』や『スコット・ピルグリム(略)』でアクションコーディネートを担当したアクション監督を起用。この人はジャッキー・チェンのスタントチーム出身。つまり、この映画でやってるのは酔拳inイギリス!!

 カンフー色の強い「手の捌き方」はモロにジャッキー映画です。デブキャラのニック・フロストが見せる格闘はサモ・ハン・キンポーにしか見えません! 「酔って戦うんだからそりゃ酔拳だよなあ!」と、事前に予測できなかったことを悔しく思いました。

 ショーン・オブ・ザ・デッドホット・ファズもアクション映画として十分な量のアクションシーンがありましたが、今作はアクションの質が段違いに向上していて、より一層楽しかった!

 ギャグとアクションだけでなく、ドラマ性もしっかり盛り込んであり、スラップスティックな光景のラッシュの中でも、それぞれのキャラクターには変化が描かれ、心情的なクライマックスにたどり着きます。この辺りの能力の高さはエドガー・ライトが初期から発揮していた才能です。

 オチは意外にも現代社会風刺の色が濃く、テーマの深さとしてはショーン・オブ・ザ・デッドに近い気がします。しかしその風刺の描き方としてはあまりにも馬鹿馬鹿しいオチが待っています!!

 大人になりきれない大人たちへの愛情をたっぷり体現しながら、その大人の未熟さを批判しているようにも感じられます。「おまえらにとっての理想世界ってこんなだぜ?」と。ラストシーンのゲイリーはその理想世界で目を輝かせています。背中にグレートソード(エクスカリバー)を携えて!!

 受け売りになりますが、この映画は『アーサー王物語』を現代的に解釈した作品だそうです。日本の伝説で例えると・・・桃太郎リブートですかね? アーサー王がくぐりぬけた12の戦いを、12軒のハシゴ酒に置き換えるという超発想のストーリー。そこにたっぷりの笑いとアクションを盛り込んで最高のコメディに仕上げてしまうエドガー・ライト。やっぱり凄い才能なんです。

 というわけで、映画館で思い切り笑いたい人は是非この映画をチョイスしてください!