Prisoners
2014/05/10、イオンシネマ板橋にて『プリズナーズ』を見ました。
娘が失踪してしまう父親をヒュー・ジャックマン、その事件の捜査に当たる刑事をジェイク・ジレンホール(ギレンホール)が演じています。
予告編にてヒューさんが容疑者を監禁して拷問する描写が描かれており、そういう方向性のストーリーはハリウッドっぽくないなーと。どうしても韓国映画っぽいなーと思ってしまうんですね。
『復讐者に憐れみを』、『オールドボーイ』、『親切なクムジャさん』の「パク・チャヌク復讐三部作」は言うまでもなく、『アジョシ』『悪魔を見た』など、強烈な拷問描写がメジャー作品でも続出。
映画にも見られる「恨(ハン)」の感情、価値観と『プリズナーズ』のストーリーラインが似ているような気がしたので、どういう共通点があるか、違いがあるのかを確かめるために観に行くことにしました。
以下ネタバレでーす。
序盤は主人公ケラー・ドーヴァーが敬虔なクリスチャンであることを濃い目に表現しています。さらには、息子に車を買ってやれない程度のブルーカラーな一般人であることが示されます。
妻、息子、娘。3人の家族に対する愛情描写はいまひとつ印象に残るものがなかったです。のちに失踪する娘がもう少し同情を引くべきキャラクターであっても良かったような気がします。
娘が失踪するまでにどのような情報を伝え、のちのちの展開の衝撃や感動を深いものにするべきかってすごく大事のような気がするんですが、今ひとつ引っかかりが無かったです。
父親ケラーが息子に教訓として授ける言葉が「常に備えよ」なんですが、備えていたつもりの父親が正気を失って暴走するという反動につながる点は意図的なのかよくわからないレベルだし、伏線としての巧さは感じません。
娘が失踪する直前はホラー映画っぽいという意味でベタな演出が多く、退屈でした。撮り方と効果音ばかりがホラーで、脚本の段階で不穏な空気を掻き立てるようなアイディアに欠けていたと思います。
脚本が強調しているのはオチにつながる情報ばかりで、中盤までのサスペンス性をうまく盛り立ててるような意図はあまり感じられませんでした。この辺は韓国映画の方がうまいです。比較対象がポン・ジュノ作品なのは酷かもですが。
子供が失踪するという物語として連想するのはクリント・イーストウッド監督『ミスティック・リバー』、ベン・アフレック監督『ゴーン・ベイビー・ゴーン』なのですが、展開のうまさ、牽引力などでは両作品に及ばない気がするんですよね。上映時間2時間半は無駄に長すぎ。
ネタフリが終わって娘が失踪する展開に。ドーヴァー一家と家族ぐるみの付き合いがある黒人の一家の娘も同時に失踪します。この部分はなかなか斬新かなと思いましたが、複数人を同時に誘拐するリスクをどう乗り越えたのかという大事なところが説明不足だった気がします。
失踪→現場で目撃されていた人物の逮捕→法的な拘束力がないので釈放→どうにかしなきゃと動く主人公・・・この辺の流れは『チェイサー』を思い出すなあ。
容疑者はポール・ダノが演じるアレックス。車の運転は可能だが、いわゆる知的障害者。しかしいくつかの情報が有力な容疑者であることを匂わせている。ケラーは自分を見失っており、監禁・拷問で娘の居場所を聞き出そうとする。
監禁するために暴力を振るったはずなんですがその描写をカットして逃げてるので興ざめ。韓国映画なら絶対頑張るところです。韓流に毒されすぎですかね? こんな形でPG12にしたところで意味ないだろ、と思いました。まあ、暴力描写はのちのち出てくるんですけど。
空き家での監禁・拷問がスタートしてから次の展開になるまでが長い! ケラーは口を割らせるためにベニヤ板で密閉した熱湯シャワールームを作るのですが、ケラーがやってることは結果的に無為に終わるし、物語の展開は刑事ロキの捜査によってもたらされるから、拷問シーンがダラダラ弛緩してるんですよ。
熱湯を浴びるアレックスの姿は映らないし、声だけでツラさと恐怖を表現させられることになるから画的に面白くない。暴力じゃダメだから→「よし、熱湯だ!」という発想も理解に苦しむし、その画を選んだセンスもどうかと思いました。
刑事ロキは真相に近付いていく手応えがほとんど無いように描かれているので正直やきもきさせられるのですが、
もう1人の容疑者が出現して追跡するも逃がして指名手配
→とある店から目撃情報が寄せられて再び現れるのを待つ
→店から電話来る
この電話が・・・来るの遅い! 暴走気味の拷問やこき使われての捜査が徒労に終わること自体を主題にしているのかもしれませんが、映画としてのテンポは悪かったです。
真犯人が分かってからの展開はなかなか面白いんですけど、それまでの流れが下手でいまひとつ乗れなかったですね。
簡潔に言うと、アレックスを育てている老女が犯人でした。アレックスも、第二の容疑者として勾留中に自殺したボブも、老女によって誘拐された被害者だったわけです。「みんなが囚人でしたー」という意味でのタイトルPrisonersだったと。
かったるい展開の中で提示されてきた色んな情報が、最後につながって線となるオチはハリウッド映画には珍しい直球のミステリーでした。オリジナル脚本としてこういうジャンルに挑むのは評価したいのですが、監督の好みなのか、脚本の弱点なのか、中盤までのまどろっこしさがどうしても我慢できませんでした。
真相を突き止めて真犯人の元へ向かったケラーが、老女に銃で脅されてあっけなく拘束されてしまうのも説得力ないし、刑事ロキが真相に気付かないままに老女の元へ向かうとなぜか観念して幼女に薬を注射している、その対応の違いもよくわからないです。
娘が帰還し、ケラーは地下に幽閉されたまま事件が解決したムードに。ラストシーンで娘の形見?のホイッスルを吹いて生存をアピールしていることが分かるものの、彼を救出する場面は描かずにエンドロールへ。
ホイッスルがなぜそこにあるのかが分からないし、娘がそのホイッスルにこだわっていたのかもわからないから、伏線として下手すぎる。どちらかといえば興ざめ。
アレックスを虐待したケラーは、前半で色濃く描かれていたクリスチャンとしての一面を覗かせて懺悔するかと思ったらそういう描写もないし、最後はただ単に生き延びようとする浅ましい存在になっていてなんじゃそらと。
真犯人の老女は、子供をさらわれた親が精神を壊す様を面白がる鬼畜変態ババアだったのですが、結果として半端な着地に終わったケラーというキャラクターに納得できませんでした。序盤のクリスチャン描写が濃かったのでオールドボーイのラストみたいな壮絶な贖罪っぷりを期待してしまった。
前述の誘拐もの映画、あるいは容疑者が自殺する展開などはポン・ジュノ『殺人の追憶』も連想したんですが、それらに比べると無駄に長いし、色んなところがチグハグで不満が多い映画でした。
子供の誘拐・監禁事件はアメリカではめちゃめちゃ多いだろうし、日本でも少なくないんでしょう。そういう社会問題に対しての明快なスタンスが描かれていた点は斬新で悪くないと思いますが、キャラクター表現やサスペンス性の盛り込み方が甘くて残念でした。
誘拐ものなら、個人的にベン・アフレック監督『ゴーン・ベイビー・ゴーン』がすごく好きなのでそちらをオススメします。