ALL YOU NEED IS KILL

2014/06/29、シネマサンシャインにてオール・ユー・ニード・イズ・キルを観てきました。All You Need Is Kill。英語タイトルはEdge of Tomorrowという、エッジ感のないもの。





日本の小説がハリウッドでダイレクトに映画化されるというレアケース。「さぞや斬新なエッセンスがあるんだろうなあ」と思ったチルも小説を買って読みました。1年前に。


読んだ時に感じたのは、作品の斬新さは別にして、「これをトム・クルーズ主演映画にしちゃうの?」ってことでした。主人公は英雄的資質を持つわけでもない凡人で、どこにでもいる新兵。トムクルーズが演じるには年齢的なギャップがありすぎ。


しかしそこは流石にハリウッド。違和感を解消するためのシナリオをしっかり仕上げてくれました。以下、ネタバレ含みます。



ニュース番組っぽい映像のつなぎで状況を説明する冒頭。宇宙から飛来した生命体ギタイによってヨーロッパ西部が侵略されちゃってます。トムクルーズ演じるケイジはアメリカ軍のスポークスマンとしてインタビューに応えています。


広告代理店出身で軍部メディア担当に所属しているケイジですが、軍の功績をアピールするために前線での現地レポートを命じられます。「いやいや、私は兵士としての能力ゼロですし」と拒絶し続けるものの、力づくで拘束され目が覚めたらヒースローの前線基地に飛ばされています。


トム・クルーズが主演するにあたっての改変に注目していたのですが、その点に関してはほぼ完璧にクリアしてくれたなあと思いました。メディアを駆使するアメリカ的な戦争観という風刺性もちょっと感じさせる。


とある分隊に放り込まれ、年下の兵士にからかわれながら早速戦場へ送られるケイジ。無骨なパワードスーツを着せられ、オスプレイ的な機体からワイヤーで投下されます。「いきなり修羅場」な感じは『プライベート・ライアン』や『スターシップ・トゥルーパーズ』チック。


人類が戦うギタイという名称のエイリアンについての情報をなかなか提示せず、戦場シーンで初めて見せるところは焦らしテク。しかしエイリアンのCG感は『もののけ姫』のたたり神の激しく蠢く触手のようで目がちょっと疲れました。


激しい戦争を描いているものの、前述の戦争映画と決定的に違うのがゴア・グロ描写。レーティングを意識してか負傷する描写は極度に控えめ。血が流れるカットも少ないし、内臓垂れ流しや部位欠損などもってのほか。やや残念なところではあるものの、見ている途中では違和感なかったです。


分隊仲間があっけなく死んでいく中、ケイジは戦場で一際目立つ黒いフォルムを目にする。「フルメタルビッチ」の悪名で知られる女兵士・リタ。片手でグレートソードを振り回し、ギタイを次々となぎ倒していきます。原作ではバトルアックスを得物にしていた(それを使う理由が描かれていた)のですが、ちょっとした改変部分。


リタはケイジの目の前であっけなく死を迎え、ケイジも死亡。次の瞬間ケイジは、ヒースローの前線基地で再び目を覚まします。同じ口調で話しかけてくる軍人たち。再び戦地に送られ、再び死を迎え、三度目覚める。生と死のループ。


ゲームのようにトライアル&エラーを余儀なくされるケイジ。これがALL YOU NEED IS KILLの画期的な世界観なのです。イムループものと戦争フィクションの融合


死をトリガーにしたタイムループがなぜ発生するのか?という点にもそれなりの理屈を通してるし、そこで「あり得ない!」憤慨する人はいないでしょう。


かといって、その理屈を通すために難解になっていたり牽引力のない展開になっているわけでもない。とてもテンポ良くまとまっています。


ケイジは死を繰り返した果てにリタに接触、自分に起きた現象を告白すると、「目覚めたら私を探して」と言われます。


リタも自分と同じように、死とリトライを繰り返した特殊性を持つ人間だったのです。この出会いは前半の山場ですね。初見なら「うおー、マジかよ!」と高まるところでしょう。ゲームでいうとCOOPに付き合ってくれるフレンド(しかもすげー強い)が見つかったようなものです。


しかしリタのループ能力は既に失われています。ここは原作とは違う部分。次の戦線で勝利の鍵を握るのはあくまでも主人公ケイジ。彼とリタは、ギタイに打ち勝つための正解を求めて何度も死を繰り返します。


ループすることで修練と経験を積み重ね、主人公が強くなっていく快感があるのですが、ループによって極端に単純明快な伏線(映像、セリフ)が張られ、それの回収(観客にとってのデジャヴ)によって快感を生み出すシナリオも非常にうまい。監督の技量も感じました。


ただの弱者だったケイジが、繰り返される1日の中で膨大な経験を経て強くクールなマンマシーンに成長していくギャップ。役者トムクルーズを魅力的に光らせるプロデューサー(トムさん自身)のセンスを感じさせます。


物語後半は原作と違う展開になっていき、新鮮な感覚で物語を追えました。この改変はハリウッドの王道らしい。去年の超大作・巨大なんちゃらアクション映画を思い出しました。原作のままだとしたらかなりエッジの効いた(効きすぎた)映画になっていたでしょう。


しかし映画版の展開も抑えの効いた哀しみが表現されていてかなり良いです。


ケイジの視点と共に物語を追ってきた観客が、ある瞬間から「非ルーパー」としてのリタと同期していたことに気付くのです。そして観客とリタは主人公ケイジの決断に触れます。かなり印象的な場面です。


さらに終盤では緊張感を増す展開が待っており、ハリウッドアレンジの鮮やかさをまざまざと見せつけられました。しかしグロ描写から逃げた結果、死の恐怖というものが中盤以降薄れてしまうのはクッキリとした弱点。


トータルでいえばSF戦争アクションというジャンルに斬新な切り口を加えた秀作と言えるでしょう。原作者はこのストーリーの根幹をひらめいた瞬間、どの程度まで勝機を見出だしたのでしょうか。


そしてそんな原作があっても映像化しえない日本映画界の視野の狭さと痩身化にも寂しさを覚えました。


派手なだけじゃないSFアクション大作、かなりのお薦めです!