怪しい彼女

 2014/08/05、TOHOシネマズみゆき座にて『怪しい彼女』を見てきました。


 また韓国映画です。70歳の性悪ババアが20歳の身体を取り戻すコメディ!


 大学教授の息子、冴えない嫁、ダメバンドをやってる孫1、フラフラしてる孫2、ばあさんを慕うじじい、じじいの娘、といったキャラクターとの関係が若返りを機にどう変化するか。


 新しい出会いが彼女の人生と心情にどのような影響を与えるのか。観客の気持ちをしっかりつかむ伏線が張られまくり。コメディとしてすごくよく出来ていると思います。基礎、応用、個性。


 オチの展開までネタバレ全開で書きますので、この作品を観る可能性がある方は全編読まないほうがいいかもです。






 結論だけ書くと、この『怪しい彼女』、オススメできますし、個人的にクライマックスで涙をドバドバ流しました


 しかし展開にいまひとつ心をつかまれなかった理由は、若返ったオ・ドゥリちゃんが歌声で周囲の心をがっちりつかんでいく点に乗りきれなかったからです。


 オ・ドゥリを演じたシム・ウンギョンさん。ちゃんとボイトレして自分の地声で歌うシーンの撮影に臨んだそうですが、「うわあ、これホントに役者自身の声なの!?」みたいに驚くほどではなかったので、その声を武器にトントン拍子でスター街道を駆け上がる展開が強引すぎる印象で。


 2時間程度の映画でこういう展開とオチにするなら強引さは不可避なのかもしれませんが。


 若返りのきっかけは「謎の写真館で写真撮ったら若返った」という、ある種の理不尽なものなのですが、元の老人に戻るきっかけが「出血するとその場所から元の身体に戻っていく」という設定になっていて。


 この設定が提示された瞬間にはオチを想像できませんでした。幸運な鈍感力です。むしろその設定から「生理が始まったタイミングで元に戻るのかな?」と予期したのですが、的外れ。生理はストーリー展開にまったく関係しませんでした。ちょっと納得できないんだよな〜。


 バンドマンの孫が交通事故で瀕死になった瞬間に「あ!主人公が孫に輸血するのね!」とオチを予測できたのですが、輸血展開を描くにしても「他の家族じゃダメだけど婆さんなら輸血できる」「なぜならRhマイナスのAB型というレアブラッドタイプだから!」というドラマ性の強化をきっちり盛り込んでほしかったのですが、その辺は意外とあっさり。


 まあその辺は些細な隅つつきで。


 サスペンス性の基本である「バレるかバレないか」という要素、今作の場合は「突然現れた美少女シンガーの正体は口の悪いババアだった」という事実がバレそうになったりする展開で、シンプルな牽引力と笑いを生み出しています。



 しかし結局この映画が描きたかったのはクライマックスにおける「オ・ドゥリを名乗るうら若き女子が実は自分の母親であることに気付き、輸血を思いとどまるように説得しようとする息子」の芝居なんだと思います。


 終盤のオーラスで超ドラマチックに描かれるこのシーン、チルの涙腺も完全崩壊し、眼球のそばからドバドバ塩水が溢れ出ました。映画館全体から鼻水をすする音が一斉に聴こえてきましたね。


 普通の映画なら「命よりも重いものがあるはずがない」と主張するのですが、「たった一人で自分を育て上げた母親が奇跡的に手に入れた若い肉体」と「自分の息子の命」を天秤にかけて前者を選ばせることによって「母親に対する感謝」の大きさを表現しているのです。


 距離感をつかみかねていた母子が、神のきまぐれによって壁を乗り越えて理解し合う瞬間。息子役ソン・ドンイルによる一世一代の大芝居、そしてそれに答えるシム・ウンギョン。素晴らしいという他ない名場面でした。監督が描きたかったテーマ性が凝縮しています。


 だからこそ、そこに至る過程がちょっと残念でした。若返りトリガーの荒唐無稽感をカバーするためにもリアリティを大事にしてほしかったし、それゆえ歌・バンド・懐メロというネタを使わなくても良かったように感じました。ただその辺のネタは韓国の観客にとってはドハマりな要素だったんだろうなと想像できます。


 目がヒリつくくらい泣いたものの、好みから外れる要素も目についた作品でした。泣きたい人、笑いたい人にはピッタリな作品だと思います。韓国映画はやっぱりヤバいです。