TOKYO TRIBE

 2014/09/01、シネマサンシャイン池袋TOKYO TRIBEを見てきました。




 原作は『TOKYO TRIBE 2』という漫画。前作の『TOKYO TRIBE』はなんというか荒涼とした作品なんですけどTT2は派手でカッコ良くてポップでイカしてたんですよね。


 しかし4巻5巻あたりで「ダメだこりゃ」って感じて読むの脱落したんですよ私は。「既存の漫画誌の常識に囚われないこと」がTT2の魅力だと思ってたんですが「既存の漫画誌に載っても人気出ないぜこれ」なストーリー展開のショボさに落胆。つまりはそんなに思い入れのない作品。


 そして今回の実写映画化。予告編を見るまで期待もしてなかったんですが…鈴木亮平がアホみたいに二丁拳銃乱射してるのを見て「うわ、やっぱ園子温ぶっ飛んでるな」と思って急激に興味持ったわけです。


 そして続いて聞こえてきたのは「バトルラップミュージカル」という奇形じみた映画としてのカテゴリ。「これは絶対見なきゃいけないやつだ!」と一気にヒートアップ。


 ちなみに園子温監督の作品については何本か見て何度かウンザリしてます。






 夜の魔窟系ストリートを切り取った序盤の長回し、自転車に乗る染谷将太を追ったところなんかダイナミックで「いいじゃんいいじゃん」と思ったんだけど(すぐ降りた)、画面のブレ方が無意味で不快。そこはきっちりキメてスケール感出してほしい。



 オフビートなRAPを紡ぎだす染谷将太狂言回しポジションとして画面を漂う。染谷将太の芝居は鼻につくなあと思っていたチルも、滑稽に笑わせようとせずぬぼーっと浮遊するこのキャラクターにはめちゃめちゃ好感を抱きました。



 テンポと勢いが素晴らしくて、脚本から強烈な熱が伝わってくる。TRIBEと呼ばれるギャング集団が各エリアを収めている、というアホアホ世界観を次々現れるラッパーたちがRAPでダラダラすることなく潔く表現していく。ミュージカルなんだから遠慮なんていらない。ビートと加速が止まらない。



 オープニングに関していえば、練馬ザファッカーのRAPは完成度高いなと思いました。



 そして窪塚洋介のアーティスト性のキマりっぷり。流石は卍ラインですよ。窪塚ふくめ、現場で録った生声RAPを映画に生かしてるからすげーカッコいいの。気持ちをダイレクトに近い距離で感じられるわけです。



 物語はごくごくシンプル。ブッバのところにスンミがやってくる。メラが海への敵対心を爆発させて戦争を仕掛ける。これが序。物語展開を頭で追いかけてもあまり意味ないです。スクリーン上で何が行われているのかを目に焼き付けてビートを吸い込めばいいのです。



 主人公的存在であるメラと海のRAPはなかなか見れないのでじれったい。けっこう引っ張ります。見れた時はすげー高まりましたよ。



 RAP素人のはずの鈴木亮平が肉体的トレーニングと同時進行で鍛えたRAPスキル。これは見事にサマになってます。やっぱり俳優人生という器にボディビルとかRAPとかが乗っかると画面から放つエネルギーの面で他のキャストに勝ち目が無くなります。



 キャストについては役者とラッパーの比率が半々くらいかな? そんな俳優陣だってRAPします。竹内力もRAPします。この映画に出てRAP任されなかった役者さんはけっこう凹むと思う。どう考えてもHIPHOPな空間として出来上がっちゃってるから、RAPスキルを見せつけることが存在感のバロメータになってる。



 それと対になる要素が、ヒロインのスンミ、スンミを守るちびっこファイター・ヨンの2人が中心となって繰り広げられる格闘アクション。そこそこ真新しいアクロバティックな擬斗を見せてくれます。



 まあしかし、いかにも体重の軽い女性キャラが男性をバッタバッタなぎ倒していく説得力は感じなかったです。『キックアス』におけるキラーな幼女「ヒット・ガール」は説得力を色んな武器で補ってたんですけど。スンミ役・清野菜名さんとヨン役・茉琴さんには今後も注目です。



 RAPとアクション、全部をひっくるめた芝居でバチバチやりあってるキャストたちなんですが、黄色いトラックスーツを着てヌンチャクふりまわして変な声を発する女性タレントさんに感じる違和感は強烈でした。



 ブルース・リーへの思いが結実した形なんでしょうけど、作中における活躍度って意味では叶美香の入れ乳の方がまだマシでしたよ! 監督のテキトーな思いつきでやらされたんでしょうから、しょこ○たんに罪は無いですけどね。結局、映画で自分を見せつけたい!って思ってる役者たちとは覚悟の重さが違うんです。



 役者だけでなく、ラッパーの皆さんも数々の修羅場をくぐってきているだけあって映像から発散されるエネルギーが違う。本職ラッパーと、それにどこまで比肩することができるかに注目される役者たちのRAPも立派なものです。もちろんリリックのデザインは本職のラッパーがやってます。



 そしてラッパーだけじゃなく、とある場面でヒューマンビートボックスを見せるサイボーグかおりさんの存在感がすげー印象的でした! だだっぴろい部屋で他のキャストが盛り上げリアクションするはずもない状況で違和感だらけのパフォーマンスを見せる姿にはカッコ良ささえ覚えました。あとストンプ入るところも高まったなあ。




 色んな才能が園子温映画に集まって発露する自己。情景として美しいですよ。しかし才能の闇鍋的なテキトーさが若干のノイズになってたりします。スンミとヨンの女子格闘コンビの関係性の描写が浅かったり、ブルース・リー真似っ子の寒さだったり。

 でもRAPをふくめたダイナミックなシーンを長回しで撮った園監督の意思に触れるたびに「どんだけリハーサル重ねたんだよ!?」と驚かされます。とにかくRAPミュージカルという世界初の試みは必見。

 シナリオ展開でいうとムサシノSARUのメンバーがブクロに乗り込むためのきっかけ/トリガーが弱すぎるし、スンミの正体がバレる/バレない?という引っ張りが軽すぎてどうしようもないです。こういう部分にちょっとした工夫を追加してあげるようなアドバイザーが園子温作品に加わればいいなあって思います。

 シナリオ的な旨味が足りないので前半の勢いがかなり失速しましたけど、それでもなお「また見たいなあ」という思いが止まりません。誰も思い至らなかったジャンル映画が日本から生まれたことを嬉しく思います。

 余談ですが、映画後半のRAPシーンで「あれ、このラッパーって昔付き合いがあったあの人じゃね?」と思ってググってみたら本当のその人でビックリ。2003年あたりに会ってたDOTAMAというラッパー。チルが知らない間にフリースタイルラップの世界でかなりの実績残してて、CDリリースも着実に続けてました。こんな映画にこんな再会があるなんてビックリですよ。