ルパン三世


ルパン三世を見ました。9月1日の「映画安く見られる日」に。TOKYO TRIBEからのハシゴでした。劇場は池袋HUMAXシネマズ。


http://lupin-the-movie.jp/



 まず前提として、私が学生だった頃に、この作品の監督・北村龍平『VERSUS』にとんでもない衝撃を受けたのです。格闘アクション、ガンアクション、刀剣アクション、ゾンビ映画、ホラー、スリラー、コメディ。雑多な要素をやたらとぶちこんで作り上げたサービス精神旺盛な奇跡的インディーズ作品でした。




 瞬く間にメジャーへ進出するも、脚本構成力に不安のある北村龍平はいまひとつその実力を評価されず、『あずみ』や『ゴジラ・ファイナルウォーズ』などの佳作からさらに上のランクへ昇ることのないまま、活動の場をアメリカに移しました。




 その後は低予算のホラー/スリラー作品を2本監督。『ミッドナイト・ミート・トレイン』では主演のブラッドレイ・クーパーをおもくそ怒鳴り散らしてたそうですよ。「でもその演技指導で演技がグッと良くなるんだよね」とは、怒鳴り現場に居合わせた町山智浩氏の談。




 役者の底力を引き出すことに関しては信頼できるんですけど、ストーリー展開に関しては大人になりきれないというか、細かいことはいいんだよ!というか。そんな感じの作風です。




 ルパン三世の実写映画化を北村龍平が監督すると聞いて「北村龍平が日本のメジャーに戻ってくるとはなあ」と若干の驚きを覚えました。日本映画界において監督不作の時代に個性を発揮していた才能の動向、気になってる人も多かったはずです。



 しかしルパン三世実写化という題材は怖い。ゆるさとカッコ良さの間で揺れる微妙なバランスの元に長期間人気をキープしてきたアニメ作品。本当の意味での原作は漫画ですけど、この企画に手を出せる人間は勇者か間抜けかのいずれかです。



 本編の感想に入ります。






 まず冒頭から盗みの本番。美術館から展示品を盗むという定番のシチュエーション。ルパン、次元、不二子、コワモテ兄さん、イケメン兄さんというチームで固い警備体制に挑んでいるのですが、ルパンが現場に来ない。コワモテ兄さんとイケメン兄さんがあと一歩でお宝ゲット、というところでアラームが鳴る。




 アタフタしてると展示室の床がズドーンと爆破され、地下駐車場にいたルパンが豪快にお宝を手に入れて走り去る。




 ワイヤーアクションや格闘アクション、カーアクション。色々と見所も多いオープニングなんですが、ルパン三世というキャラがこんなアホな手段で盗んでいいのかな? と思わざるを得ない。「いかに盗み出すか」は大泥棒キャラの造型を大きく左右する大事な要素のはずなんですが、床バッコーンて。




 展示室が床のコンクリ隔てて駐車場に繋がってるのも…実際の美術館がどんな構造なのか知らないけども、リアリティ感じないから痛快さも弱い。何十年と作られてきた過去のアニメ版ルパン三世に対してそんな貧弱なアイディアで挑もうとしてたんですか?と脚本チームの体たらくが目につく。




 そもそも有名アニメの実写化という試みは、原作の常識に慣れている観客の中に生まれる違和感との戦いなわけですよ。ルパン三世の面白さの醍醐味はここにあるんだという常識、このキャラクターの魅力はここだという常識。そういった常識との間に生まれるギャップ、違和感。




 さきほど述べた「ルパン三世ってこんなキャラでいいの?」というのも違和感の一種なのですが、この場合原作とのギャップに対して抱いた違和感ではなく、私自身がよしとする映画的価値観とのギャップから抱いたものなんですね。




 原作とこんなに違う=だから悪い!ダメ!という違和感を評論における絶対的基準として設定してしまうのは少々不格好に思えるし、そういった意見を並べてたてるだけなら誰にでも出来ます。




 具体的な例で言えば、ルパン三世のチームに見たこともないような新キャラが加わっているからといって、それが即ちダメであると断じてしまうのは作品に対する批評として初歩的だと思います。無駄だと感じたものを切り捨て、必要だと思ったものを追加する。これは創作活動としての初歩。




 というわけで気を取り直して、今作が面白い映画という理想およびゴールに向けてどのようなアプローチを選んだのか、それを読み取る努力をしながら、あーだこーだ言いたいと思います。




 今回のストーリーラインは、かいつまんで話せばそんなに悪くないと思います。ディテールの穴を突けばキリがないものの、全体の構成と展開は十分健闘してます。




 まずルパンがライバル(同業者の泥棒)に出し抜かれる。そしてさらに裏切られてルパンにとっての恩人が殺される。ルパンは屈辱を味わうと同時に復讐を誓う。




 復讐のチャンスが訪れたと思いきや、ライバルはさらなる巨悪の策略によって打ちのめされる。ルパンに対するライバルの裏切りも巨悪なラスボスが仕向けたものだった。




 ルパンとライバルは巨悪野郎に一泡吹かせるために共闘の道を選び、難攻不落の拠点に挑むことに…




 この大まかな流れについてはブーイングを飛ばすほどではないと思いますよ。



 さらには画的な貧しさも回避してるし、役者の芝居もしっかり引き出されてる。そういう広い意味では、この映画ってヒットするべくしてヒットしてると思うのですよね。



 しかし、オープニングからクライマックスに至るまで、色んなところで脚本の詰めが甘いんですねー。




 おおざっぱに言うと




 泥棒軍団が何かを盗み出す様を描くジャンル=ケイパームービーとして斬新なアプローチに欠ける。盗み出す手順が特にそれに伴って、怪盗ルパン三世というキャラクターの魅力が半減。




 この部分が今作の決定的な欠点としてあからさまに露呈しているので、どうしても長所が隠れてしまっている。




 クライマックスでルパンが挑む世界一厳重な保管庫が、結局は魔法の合言葉『ハッキング』によって突破口を開く。なかなかのショボさですよね。それはまあ許すとしても、そのハッキングに挑むのが物語終盤で伏線もドラマ性もなく登場した出オチ系ビジュアルのおばちゃん、っていう…不可解さ。




 障害を乗り越えるセオリーを完全に無視したこの超展開、逆にアリなのかもしれません。ギャグのような展開も、日本人がやってるから寒々しく感じるだけなのかもね!




 にしても、保管庫の赤外線センサーを突破する方法さえもがギャグのノリなところを見ると、やっぱりこの人たち(脚本家と監督)ケイパームービーへの意欲とか、温めていたアイディアとか全く持ってないんだなーと冷めてしまうんですね。




 もっと曖昧な意味においての人間ドラマさえある程度盛りたてればどうにかなる!なんて思っちゃったんでしょうね。




 人間ドラマ、そこそこ頑張ってると思います。峰不二子のジレンマを軸にしていて、「不二子は日本人じゃなかった?」という設定をちらつかせるのも悪趣味チックでニヤリとさせられました。




 その不二子を演じたのが黒木メイサさんですが、端的に言えば最高だなあと思いました。入浴シーンでは彼女のボディにまとわりつく泡に憎しみを覚えたし、アクションも頑張ってるように見える撮り方してました。もっとイカした映画でイケてるメイサ様を見たいですよ。




 ルパン役小栗旬、次元役玉山鉄二、五右衛門役綾野剛。まあまあ…役作りとしては間違ってなかったと思います。原作アニメとの違いを挙げればポンポン出てきますけどそんなのはどうでもいいんですよ。




 脚本の段階で次元は影が薄いし、五右衛門はオツムが足りなくて、もう少し魅力的な描き方ができたでしょうね。でもカーアクションでの五右衛門はなかなか決まってましたよ。




 銭形役の浅野忠信は北村演出でつぶされたような気がしないでもないかなー。説明的な長ぜりふ多いのに、アニメに寄せたダミ声風が続くとダレる。




 外国人キャラのセリフが日本語吹き替えになってるのは虚をつかれた感じしましたけどこれくらい開き直るのもアリかもって感じるように。『オンリーゴッド』のゴッドが登場した時は笑いました。あんなにぶっ飛んだキャラじゃないけど。




 アクション全般は、北村龍平監督作の割に低調かなー。アクション自体も撮り方も、そんなにこだわるエネルギー残ってませんよーって感じ。




 というわけで、トータルでは嫌悪感を覚えることもなく最後まで見れました。器量のない監督ならこんな風に着地できなかったんじゃないかなーと感じますよ。




 北村龍平が日本映画界に戻るきっかけになる程度には仕上がってたと思いますが、突き抜けるような魅力は発揮されてなくて寂しさも感じます。贔屓目あるのは自覚してますけど、こういう映画をクソミソに叩いてたらスケール感のあるディレクターはどんどん潰れていくだけじゃないの?と思います。