悪い男[韓]

 脚本・監督=キム・ギドク「悪い男」を観ました。レンタル。DVD。
 「悪い男」日本語サイト
悪い男 [DVD]
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 以下、実況的感想と批評。

  • 早々からモブでスケール感
  • ラーメン食ってる演技がなぜかおもしろい
  • 片岡明日香劣化版を思わせる女性=ソナ、サクッと消えるキャラかと思ったのにメインキャスト…
  • 車内からのアングル好きらしい
  • 風俗追い出された狂人に煙草をすすめちゃう主人公。狂人「住めば都かい?」ナンセンス感にドキッとさせられた
  • 展開が良い。テンポが心地よい
  • ソナ役の人は演技うまいかもしれない
  • かつてないゲロ
  • ブン殴った舎弟に煙草をすすめる瞬間。めっちゃカッコいい

 おっとっと、最後まで見入ってしまった。片岡明日香劣化版なんて言ってごめんなさい。超ごめんなさい。野暮ったいメイクに釣られました。
 完成度の高さとか気が利いてるだとかスキが無いだとか、そういう観点でいえばこの作品はパク・チャヌクポン・ジュノの作品に比べて大きく劣っているでしょう。
 しかしこの作品を観ると、[完成度]なんてキャリアを積みながら身に付けていけば良いじゃねーか。思い切り思い切り自分を叩きつければ、それだけで映画ってガッツリ仕上がるじゃねーか。
 と感じました。思い切り叩きつけるべき自己の確立こそが映画作家に求められるのかもしれませんね。そしてチルさんは、そういう立ち位置に憧れないわけじゃないし、キム・ギドクの作品と出会ったのはちょっとした転換点になるのかもしれません。
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 作品を語ろう。展開に関しては「サマリア」よりも山がハッキリしていて、[牽引力]みたいなものは単純にこの作品の方が上。
 キャラクターの心理描写は、客の感情移入を拒絶するような歪みの上に成り立っているので、客の予想力を満たしてあげるような描写は皆無といって良い。
 意図を伝えようとする努力を半ば放棄するかのような作風でありつつ、おまけに主人公がゴリラーマン級の無口。あっさりして退屈な映画になってもおかしくないのだが、編集も悪くないし音楽も多目でそういう意味で完成度は低くない。演出が主張しすぎないという事かな。
 無口の主人公という要素が足を引っ張るような瞬間もごくわずかで、シナリオ段階で相当苦労してるんだろうなぁ。しかしこのキャラクターが中心にドッシリ据えられているからこそ、全体的に迷いのない描写になり得ているのかもしれない。
 終盤というか後半の展開は文句の付けようがない。伏線も綺麗だ。ラストは「ここまで持ってきたのに[そこ]に着地させるのか!」と驚いた。度胸ある監督だなぁ。
 しかしそのラストも、主人公のキャラクターを考えると意思疎通の必要なく生きていくには[そうする]以外に無いのかな、と思い納得した。
 元々キム・ギドクは脚本家出身で、脚本という媒体で何が出来るのかを無意識のうちに自覚しているような印象があり、そこに恐ろしさを感じる。
 この「悪い男」も熱がたっぷりこめられたシナリオであり、観て良かったなぁと思いました。こういう作品にこそ自分は影響されていくのかもしれないなぁ。国際的な評価とか度外視で凄い映画だと思います。