グエムル 漢江の怪物
フジテレビの夏休みイベントの一環で上映されたグエムルを観てきました。監督は今作がデビュー以来3本目の長編となるポン・ジュノ。原題が韓国語で「怪物」、英題がThe Hostだったかな。
諸情報をチョコチョコ並べる事さえも気が引けるので感想を。
ネ
タ
バ
レ
回
避
し
て
み
よ
う
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な
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ネタバレに慎重になってみたものの、この映画は日本で当たるのだろうか。まぁいいや。
- オープニングシーンでモンスター誕生の原因をサラッと処理。安置所→いきなりドギツい死体キタコレ!なんて期待を抱きましたがスカされる。
- 主人公ソン・ガンホ&その父親ピョン・ヒボン登場。序盤からキャラクターの背景・性格がアグレッシブに描写されていく。惰眠、子煩悩、ヘソクリ。そこには当然のように伏線を織り交ぜてある。
- スルメの足をつまみ食いする、たったそれだけのプチギャグ描写が「お詫び行ってこい」につながり、キャラクターのポジショニング*1に影響し、アクションの展開につながっていく。
- 怪物があっけらかんと登場。唐突すぎて笑う。繭(まゆ)のようなものかと思ったら川へ豪快にダイブ。
- 怪物を発見した当初は「ネッシー騒動に地元住民大慌て♪」みたいなノリで違和感を覚えるが、これは監督の狙いなんだろう。水面に浮かぶ巨大な魚影にビールやらつまみやらを投げ込む描写は緊張感からかけ離れている。
- 一転して怪物が怪物らしさを発揮する。ポン・ジュノの押し引きに翻弄される。圧倒的なスピードとパワー。カメラワークのスピード感も容赦なし。群集のスケールもかなりのもの。
- トレーラーハウス?に怪物と閉じ込められた哀れな犠牲者。血みどろになりながら開きかけのドアから助けを呼ぶ姿はゾンビ映画チック。
- ヒロイックな軍人と共になぜか怪物に挑むソン・ガンホ。コンクリのタイルやら標識やら原始的な武器ばかり。登場シーンはあからさまなのに、残酷な描写はひっそり行う怪物クン。
- 未だに怪物に気付いていないおじいと孫。観客の90%は孫がさらわれるという展開を把握しているため、そこに至る経緯が重要なのだが…ちゃんと一工夫あり。
- 葬式を笑いの漂う空間であると認識しているポン・ジュノの感性。茫然自失のペ・ドゥナ、酒に溺れたパク・ヘイル登場。終始疲れきった表情のメインキャスト勢。スター扱いからは程遠い。カッコ悪すぎるドロップキック。
- 病院に強制的に収容される一家。娘の生存を知らない段階なので空気は緩い。自由に描写している感がある。
- 携帯への着信1本では何も動かせないという事実。越えがたい障害とて存在する公的権力の現実味。腕ずくで突破する一家。走るカットがどれもハイクオリティで困る。
- 病院からの脱出、検問を抜ける、武器を入手する…という展開で抜け目ない爺さんキャラのピョン・ヒボンが光る。その輝きは燃え尽きる前のアレってやつで…
- 徒労に終わる捜索活動の中で細やかに描かれるキャラクター達。祖父が長男を語るシーンはやや冗長気味だが、構成的には妙味。「こっちを見てる」
- 口を広げて雨水を飲み下す怪物はちょっと可愛すぎる。ショットガン発射で一気にテンションアップ!!!
- 爺さんとおっさんが超シリアスな表情でショットガンを構える画はカッコ良すぎ。2ndバトルの結末はシンプルかつ鮮やかな伏線処理によって締め。グレイト。
- 離散する一家。病院を抜け出すタイミングが早いなーと思っていたところでの意外性。先の展開が読めなくなった。
- 再び軟禁されたソン・ガンホに代わり、物語の中心はパク・ヘイルへ。姪の携帯の発信源をつきとめるために携帯電話会社ビルへ。
- 登場直後から怪しさ全開の「先輩」。デモばかりしてたのにどうやってケイタイ企業に就職したんです? は「就職がウソである事」と「活動家であった事」を示す二重の伏線か。
- 警察によるワナであると知って逃走する際のアイディアはなんだかズルい。ワナだと分かりつつも冷静に目的は達成するところなどはウンウン、そうだ頑張れなんて思ってしまった。
- 全員がバラバラの場所にいながらそれぞれが奮闘する様子が絶妙の構成と編集でテンポ良く描写されていく様は圧倒的ですらある。
- 発信源を託されたペ・ドゥナが怪物とエンカウント。遂にアーチェリーの腕が発揮される時が…! と思わせておいて秒殺的ノックアウト。引っ張る引っ張る。
- 行き倒れ状態で出会ったホームレスと合流して火炎瓶を用意したパク・ヘイル。運良く生き延びたペ・ドゥナ、人格を誤解されたおかげで病院を抜け出したソン・ガンホ。3人が合流。いよいよクライマックス。
- ラストシーンのアクションの流れは神がかり的。言葉にならない。拳銃をぶっ放す警官を見てソン・ガンホがプランチャー、火炎瓶を投げまくるパク・ヘイルのピッチングフォーム、クライマックス特有の凝縮感を感じさせつつも次から次へと展開が生まれる。
- 謎の助っ人、予定調和の崩壊、それをリカバーする××、期待感の爆発、直後に生まれる別の不安、それをシャットダウンする…美しすぎる流れに心の底から感銘し、涙を抑え切れませんでした。
- オーラスは意外性の無さが意外。
以上リアルタイム系感想でした。やはり、ポン・ジュノは緻密なシナリオを書く人である。今回のようなダイナミックな企画であろうとも、映画に込め得る緻密さは大事にしつつじっくり盛り込んでいる。
前作2本でもよく言われる、社会的なテーマ性の重みは今作も十分に発揮されているのだけど、個人的には、[映画の面白みを知っている人間としての遊び方]がポン・ジュノの最大の魅力であるように思う。
感性でシナリオを書く人ではないだろう。計算した上ではじき出した答えを、映画という媒体においても難なく発揮できる稀有な映画作家だ。
それにしてもグエムル。上映後のトークでも言われていたように、モンスター映画のセオリーから外れる事自体が1つのテーマになっているのは確かでしょう。でもセオリー外しただけで喜んでるような低レベルな作品ではない。様々なキャラクター、様々なシチュエーション、そこら中にポン・ジュノテイストがてんこ盛り。
保守的な映画ファンには不評かもしれないが、この映画を成立させてしまうポン・ジュノは物凄い才能ですよ。ネタバレしてるのかどうか微妙なレビューだけど、とにかくうp!
*1:ここでは単純に「立ち位置」という意味で使っています