SUNSHINE

 邦題「サンシャイン2057」を観ました。
 キリアン・マーフィって何歳なんでしょうね。…よかった、チルさんより4つ上だ。これで年下だったりしたら無駄に戸惑ってしまうところだった。
 感想は一応隠します。
 この映画についての感想を書くにあたってはいかにストーリーを反芻できるかが重要な気がしています。思い出せるだけ思い出して感想を挟んでいこうと思います。途中まで読んで面白そうだと思った方は、読むのをそこで中断し、映画館で続きをご覧ください。
 まず、ナレーションというかモノローグで2057年の状況が説明される。太陽が死にかけている。放射されるべきエネルギーは弱まり、地球は完全な氷河期状態。太陽光遮断シールドで防護され、超巨大核爆弾を積んだ宇宙船・イカロスⅡが太陽へ向かっている。クルーは8人。
 核爆弾を太陽に向けて発射し、星の中に星を作る…それがイカロスプロジェクト。同計画の元、7年前地球を発ったイカロスⅠからの連絡は途絶えた。
 地球に向けて発信可能になる最後のメッセージを送信し、水星の皆既日食を観賞し終えた直後、太陽に程近いエリアから信号が送られてくる。イカロスⅠからの救難信号である。
 合流のメリットと失敗のリスクが天秤にかけられる。物理学者であるキャパ(キリアン・マーフィ)が決断を下すことになる。“Shit...”
 この辺の扱い方を見るとキリアン・マーフィは別格のスターポジションにいる。そしてそのポジションにふさわしい演技を堪能させてくれる。
 Ⅰ号とのランデブーを目指して進路を変更するイカロスⅡだったが、船内に警報が鳴り響く。進路変更にともなって太陽光遮断シールドの角度も1.1°変更すべきだったところを見落とし、シールドの一部が破損してしまう。こうやってあっさり書いてしまうと障害として「やっつけ」っぽいですがリアリティは丁寧に付与されています。
 船外で修復活動をするのは船長のカネダ(真田広之)とキャパ。キャパが行うことになった理由はしっかり描かれなかったと思います。字幕のフォロー不足かもしれない。
 ウロコのようなシールドのうち4枚が油圧ポンプをオシャカにしているために制御できなくなっている。二人はシールドの影で修復作業を行う。金色で不恰好なゴテゴテ宇宙服を着て作業する苦難はしっかり描かれている。酸素を消耗しすぎのキャパとか。
 宇宙船全体の角度を傾ける事で太陽光の照射面積をシールドの一部分に限定しながら作業する二人だったが、破損が破損を生み、船体の制御がうまくいかず、やがて太陽光が船外作業中の二人に迫る。
 カネダはキャパに帰還を命じ、決死の修理作業を続ける。修復完了の瞬間、炎の大波がカネダを飲み込み焼き尽くす。最初に脱落するのがカネダなのは残念かもですが、とりあえず凄い映像でした。精神科医のサール(クリフ・カーティス)が死を覚悟したカネダに向けて「何が見える!? カネダ! カネダ!」と連呼する描写はなかなかグッときました。
 酸素生産ルームで植物を育てていたコラゾン(ミシェル・ヨー)は愛情の対象を太陽に焼き尽くされて絶望。己の責任によってクルーを死なせてしまった数学者トレイ(ベネディクト・ウォン)はウツ状態に。自殺防止のため精神安定剤を投与され、眠りにつく。
 記憶は定かではないものの、この直後にイカロスⅠとのランデブーになります。割と唐突ですが、無駄がなくて良かったです。
 Ⅱ号がⅠ号に一方的なドッキング。クルーのうち4人がⅠ号の船内を捜索することに。船内のあらゆる物が大量のホコリで覆われている。ホコリの正体は、灰と化した人の皮膚組織。Ⅰ号に入った途端にサブリミナルで挿入されるⅠ号クルーの笑顔写真が怖い。
 船内のシステムの大部分が正常に作動しており、核爆弾も起爆可能状態であることが分かる。酸素ルームは植物が無尽蔵に生い茂っており、残りの酸素を心配する必要がなくなる。
 そして船内にクルーの遺体が見つかる。数人が寄り添うようにテーブル席に着席したまま、シールドで遮断されない太陽光を直接浴びて焼け死んでいる。
 轟音とともに船が激しく揺れる。Ⅱ号クルーからⅠ号とのドッキングが解除された事を知らされる4人。船体の安定は取り戻したものの、エアロック部分は損傷して再びドッキングする事は不可能。一人分の宇宙服が見つかり、優先順位が上のキャパがそれを着ることになる。
 副キャプテンの位置にいるハーヴィー(トロイ・ギャリティ)は権力を振りかざしてゴネるが、結局はキャパが宇宙服を着たままに。4人は、エアロックを開いて噴射される空気とともにⅡ号へ飛び移る賭けに出る。エアロックを制御するコンピュータは船内からの手動操作でないと開閉できない事が分かり、サールがⅠ号に残ることを決断する。
 メイス(クリス・エヴァンス)とハーヴィーは酸素の無いマイナス273℃の空間を飛び移るためにエアロック内部の「壁紙」を全身に巻きつける。Ⅱ号がハッチを開き、サールがⅠ号のエアロックを開く。キャパとメイスはハッチに飛び込んだが、ハーヴィーは失敗して宇宙空間に放出されてしまう。2007年現在のCG技術による「宇宙に放り出された人間」描写が見られます。
 Ⅰ号に残ったサールは「最期の晩餐*1」状態のディナーテーブルに腰掛け、己の一生を太陽に焼かれる事で終える。
 さらに二人のクルーを失ったイカロスⅡ。クルーが3人減った状態でシミュレートしても爆弾投下ポイントまで酸素が持たない事が判明。自動制御されていたはずのドッキングがなぜ外れたのかを議論するうち、昏睡状態にあるはずのトレイに容疑が向けられる。
 残りの酸素量を考慮し、メイスはトレイを殺害することを提案する。キャパ、コラゾンはそれに賛成し、女性パイロット・キャシー(ローズ・バーン)は棄権。涙を流しながら慈悲深い殺害を懇願する。メイスが電動メスを手にトレイの部屋に行くと、ベッドに寝ていたはずのトレイがいない。
 地球環境をCGで再現したリラクゼーションルームで、羽ばたく鳥に囲まれながら手首から血を流すトレイ。死んでいる。メイスはキャパに対し、おまえの決断が多くの死を生んだ。おまえの手は血で汚れてるんだ!と言い放つ。殴り合いの喧嘩になるが、薄い酸素のせいですぐに収束する。
 残された4人は通常任務に戻る。キャパが核爆弾のチェックを行っていると、船のシステムコンピュータが目的達成ポイントまで酸素が持たない事を告げる。トレイが死んで4人になった、足りるはずじゃないか?と訊ねると、「船内にいるのは4人ではなく5人です」と答える。
 この瞬間がこのシナリオのキモだとは思うのですが、残念ながら予告編でこの部分はバレてしまっている。予告編でこのシーンを見たからこそ「おぉ、思ったより面白そうだ」と感じたのは確かなので予告編の構成にケチはつけられないわけですが、それでも、このキモ部分を知らずにこのシーンを観たらどれくらいドキッとしただろうなぁ、なんて思ったりする。
 ホラーテイスト、アクション描写、ミステリ風味…渾然となった濃密なシチュエーション。クライマックスです。脚本の構成力、ディレクターの腕力、その他もろもろ…がもたらす流石の加速力。クルー全員が己を犠牲にしてイカロス・プロジェクトの遂行を目指す…
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 あまりこういうジャンルの映画は観ていないので比較対象がアルマゲドンになってしまう。そんな比較に意味はない。南極日誌もちょいちょい脳裏をかすめたかな。
 太陽が映りこんだ巨大なシールドと、眼球。このイメージが強烈に残っています。
 宇宙船という閉鎖空間、そこで起こるドラマ。障害がどこから生じたのか。どんなテンポで生まれたのか。何がそれを解決したのか。展開を思い出しながら書き出してみるとやっぱり上手く出来たシナリオですね。
 今作の脚本を担当したアレックス・ガーランドは科学寄りのシナリオを得意とするという意味でマイケル・クライトンみたいなポジションの作家ともいえますが、ストーリテリングの方向性がハッキリと映画脚本の方を向いているので、心地よいし、技術的にも勉強になります。
 監督・ダニー・ボイルは相変わらず良い意味でハイセンス。空気を壊さない範囲で新しい試みを導入できる人だと思う。テゴワイ。
 主演・キリアン・マーフィはやっぱり凄いです。なんというか…清潔感がある。繊細さを表現するのに適したルックスがズルいとさえ感じる。今後も注目。
 あからさまに「凄い映画を観た!」と実感できる作品ではありませんでしたが、じわじわぐいぐいと存在感が増してくる映画です。以上!

*1:誤字ではない