育成枠移行批判に反論

 中日が所属選手をシーズン開幕後に育成枠選手に移行するためウェーバー公示にかけると発表、選手会は「趣旨が違う。制度を都合のいいように解釈されては困る」と批判した。
 私はその反発に対して反論する。私はこの問題に関する2chスレにずーっと張り付いていたが、そういう場で批判派が掲げていた論点をいくつかにまとめた。その1つ1つに反論する。
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 枠を空けるために行うのが悪い

  • 育成枠制度が所属選手の育成枠移行を認めている以上、それを実行するチームは必ず選手枠を1つ空ける事になる。育成枠に落とす場合はウェーバー公示すること、とルールに明記されている以上、制度が育成枠移行を想定して認めているという事に他ならないし、それはつまり、育成枠を使って選手枠を空ける事も想定して認めているのと同義。
  • 「70人枠が埋まっている中日はそれをするべきではない」というなら、チーム事情によって「行為の善悪の判断/趣旨にふさわしいか否かの判断」が分かれるのはおかしい。
  • 制度が成立した段階で育成枠移行の意味合いを理解し、それをふまえてチーム編成を行った(であろう)中日だけがアンフェアであると責められるのはおかしい。
  • 選手枠を限度いっぱいまで活用している中日は、選手の利益を保護しようとする選手会のスタンスに何ら反していない。金本は今シーズンの年俸を満額受け取ることが出来る。

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 代わりに選手登録されるのが外国人選手であるのが悪い

  • 外国人選手を育成枠選手として登録できる制度の下でそれを訴えるのは無理がある。他のチームにも育成枠外国人はいる。
  • 外国人選手が選手会に所属していないからといって、外国人選手がチャンスを得る事を選手会が妨害するのは明らかに越権行為であり、中日以外の特定チームの利益を背負っているニュアンスさえ感じられる。

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 シーズン開幕後に行うのが悪い

  • 過去に、選手枠が限度まで埋まっているチームが選手枠を空けるために行ったトレードもあったはず。そういったケースよりもよっぽど温情的な今回の行動(解雇でない。育成枠行きである)を金本への不当な扱いとして糾弾するのはかなり穿った見方である。
  • 今回の対応が「非情」と言う人は、プロ野球界そのものが非情のまかり通るシビアな世界であることを思い出してほしい。大多数の選手は一年限りの契約を勝ち取るために必死になっている。育成枠制度によって球団に所属している選手はより一層厳しい境遇に置かれており、それを認めているのが育成枠制度そのものである。

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 金本を選出したのが悪い

  • 金本明博は、高卒2年目の19歳。中日スカウトは金本の野手としての才能を買って獲得に踏み切った。しかし金本は投手として入団。2軍出場1試合、投球回0.1回(0イニング1/3)、防御率81.0という成績で2006年シーズンを終えた。*1
  • 2007年春キャンプの終盤になって野手転向することを決断した。
  • このような事情を抱えた選手であっても育成枠選手としてふさわしくないと判断されるのであれば、これ以上ふさわしい選手っているんですか?と問いたい。
  • 長期的な怪我を抱えている選手以外はシーズン中に育成枠落ちさせるべきではない、それが育成枠の理念である、球団フロントはそれくらい分かっていて当然だ、という言い分は無理にもほどがある。

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 秋に結んだ1年契約を完了しないのが悪い

  • 昨年秋に結んだ契約条件の元で支払われるべき年俸は間違いなく支払われる。
  • 秋に保障されていたはずの「一軍出場する可能性」を金本は完全に失う事になるが、昨年秋の契約で一軍出場が「確約」されていたのを反故にしたわけでもない。また、中日の選手層と金本の実力を考慮すれば一軍出場の可能性は0に限りなく近かった。
  • 全ての選手に一軍出場のチャンスを確保する事、そのチャンスが失われそうな時に反対する事が選手会の役目だというなら、今回のような形でそのチャンスを奪う可能性を生み出した育成選手枠制度自体の問題点を指摘し、改善するよう働きかけていくべきである。選手会も球団も、ルールを押し付けられたわけではない。双方の合意の下で成立した制度である。

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 今回の手法を許したら、もっとあくどい形で利用する球団が出てきて70人枠の意味が崩壊する。だから悪い

  • 中日が行った手法と、「もっとあくどい形」での利用という仮定との間にはかなり差があるのにそれを混同して批判するのは間違っている。
  • 育成枠に落とす度にウェーバー公示の必要が生じ、他球団に奪われるリスクが生まれる以上、育成枠移行という手法を気軽に行えるはずがない。ウェーバー公示が必要という制度はそれなりに抑制効果がある。
  • 選手会会長・宮本は「極端だけど、ウチ(ヤクルト)なら(故障している)五十嵐亮や石井弘を育成枠にして、ほかから選手を獲ってこれる」と発言したが、改めて言うまでもなく暴論。ヤクルトはそういう形で五十嵐を他球団に差し出す気はないだろうが、中日は金本が奪われるリスクを受け入れたというだけ。
  • シーズン前だろうがシーズン開幕後だろうが、選手枠を与えるのがもったいない程度の選手を育成枠に移行させるという行為の意味に差は無いはず。中日以外の球団は既に育成枠移行(その前段階としてのウェーバー公示)を実行に移している。
  • 育成枠への移行行為そのものが悪質と見なされる、あるいはその行為によって球団が必要以上に得をする事が許されないというなら、育成枠への移行は最初から全面的に禁じられておくべきである。

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 こんなところです。

*1:この場所で「投手としてこんなにダメな選手」という事を訴えたいわけではない