M-1グランプリ決勝ネタ批評

 結果を既に把握している状態で観ると「客にウケているかどうか」を一切気にせずネタの中身を味わうことができて良いですね。
ダイアン

  • この漫才は凄い。しかしもう少し濃度を高められると思う。序盤の「サンタ知らないテイ」の部分でリアリティを大事にしすぎているのでややモタついた印象になる。ファナスティの部分も伸ばしすぎ。冷めていたボケが急にテンションを上げておいて終盤全てを否定される展開は素晴らしい。サンタに疑問を持つおっさん、信じていたサンタを否定されたガキおやじ、ギャップのある2種類のキャラをきっちり演じる事でボケのキレが高まる。とにかくよく出来ている。

笑い飯

  • 闘牛士のくだりのオチでWボケというスタイルを自ら否定。哲夫はこの辺のテーマ性の付与を意識的に行っているところが恐ろしい。ルックスあんだけバカっぽいのに。しかし2つめのシチュエーションでWボケ体制に突入するとボケのキレが落ちて例年通りの印象に落ち着いてしまう。残念。しかし前半の闘牛士ネタは動き中心のボケで馬鹿っぽさが突き抜けていて面白すぎでした。

ナイツ

  • 相方をほとんど無視したボケがほぼ漫談状態でボケを連発。ツッコミとのコミュニケーションを完全に捨てる事によってボケの数をギリギリまで高めている。かたやツッコミはねちっこいツッコミで笑いを増幅。それがナイツのスタイル。ボケが生む笑いの数とツッコミで生み出す笑いの数を足すと確かに驚くべき量である。しかし、ボケのパターンが「覚え間違い」に終始してそれほど広がりようが無いのに対し、ツッコミの内容がところどころダラダラしていて無駄になっている事が多い。相方を無視しているようでいてボケがツッコミを待ってからボケるタイミングも結構あるのだが、ツッコミ待ちをせずにサラッと次のボケに行くべきポイントもチラホラ見られ(要するにツッコミがつまらない部分)、その点ではまだ改善の余地があると思う。

モンスターエンジン

  • 「相方のバーターで映画に出演したはずなのに目立ちまくり」という前半は、ひ弱な外見と脂っこいボケのギャップが発揮されてとても良い。しかしエイリアンになってからのボケはいまひとつ練り込みに欠ける。長い上にキレが無い。ツッコミが最後までテンション低いままなのはネタ自体に面白みを感じていないからだろう。

U字工事

  • 地元愛をひけらかして他の地方の人間を置いてけぼりにしている、と誤解する人が多いようだ。地元愛に取り付かれているように見えて、実は地元愛を嘲笑の対象にしている。コントばりの濃いキャラクター造形の上に成り立っている漫才である。そのテイストは決して土地カンの有無に左右されるような要素ではない(そんな事も分からない審査員は間抜け)。埼玉ネタや妹ネタでべしゃりのトーンを変えるのもおそらく意識的に取り入れていて巧い。ボケのパターンも少なくないし、間も良い。

ザ・パンチ

  • ボケの外見の奇妙さをひたすらイジる事に徹しているつかみがもったいない。死んで〜というツッコミも含め、ツッコミが色んな形での嫌悪感を相方に叩き込むスタンスなのだが、コンビという枠組で仲良く漫才をやっている体裁を超えてしまっている。一線を越えているというか。コンビとしてのスタンス以前に、長文で示される嫌悪感ツッコミの面白みにキレが無く、キレのないツッコミボケによって全体のテンポが悪くなり、ボケのパターンも数が限られ、イケてるアナウンサーの体でボケるというシチュエーションから結局抜け出せないまま終わるという構造的な欠陥が致命的。ボケの内容も印象が薄い。しかし採点が表示された直後の表情は素晴らしい。

NON STYLE

  • 序盤から甲高い声とおもしろ顔面連発でボケのキャラクターをガンガン押し出してくる。個人的に、その手法の段階で拒絶感が一気に高まって笑う事を完全に拒絶してしまう。手法として意識的にやっている事だろうけど、無理。極めつきは「己の太ももを殴っての一言ボケ」。通常のボケのキレの悪さがその動作によって誤魔化されているパターンがとても多い。はっきり言ってこんなだましだましの漫才は認められない。でも客席は大ウケである。

キングコング

  • 数年前のクオリティに戻ってしまった。ボケとツッコミのリズム感だけが目立つ形骸化漫才。漫才についてもっとしっかり考えているコンビかと思っていたんですが、去年の漫才だけが異常だったのかと思ってしまう。中田カウスは「技術は凄いがハートが付いていってない」と評していたけど、深みのないネタの構造を見ると、むしろ「ハートだけじゃ面白い漫才は出来ない」と言いたい。梶原がインタビュアーとしてボケる、この構図だけでボケ続けるだけで爆笑は生まれない。アクションを含めたボケも出せないし。どうしちゃったんでしょうか。

オードリー

  • ナイツと対照的に、ツッコミ若林が物凄いペースでどうでもいい与太話を進める。そこにボケ春日が的外れなツッコミでボケる。その基本スタイルの時点で革新的。しかしツッコミボケだけに捉われず広いパターンのボケも取り入れている。若林ツッコミによる笑いの生み方もバリエーションが多彩。ワンテンポ外したり、春日との親密さを突如アピールしたり、ノリツッコミだったり。失速らしい失速も無く、パターンにはまらないカオスなネタ構成は見事。噛んだ(トチった)のを笑いに変えるのも、準備と下地の経験があるからこそ瞬時に対応できる技術である。決勝9組の中ではダントツのクオリティ。

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以下最終決戦
ナイツ

  • 無理やりヤホーにこだわるところがアホっぽくておもろい。1本目と何一つ変わらないスタイル。光GENJIネタで序盤を乗り切るのはちょっと苦しい。1本目の「下ネタでくくったボケで大きな波を作った」というような、ボケのパターンを特定のカラーでまとめることで笑いを生むようなテクニックが欲しかったが、2本目のネタのボケはほとんど単発で散漫。メガネボケは繰り返すほどのキレ無し。このネタならではの武器が無かったためにいまいち大きな笑いにつながらなかったといえる。

NON STYLE

  • 改めてじっくりネタを見てみるが、ボケのキレが中途半端なのを太もも殴りで誤魔化しているという印象は全く変わらず。あるいはそこそこのキレがあるボケさえも太もも殴りで笑いが散漫になっている部分もある。このスタイルじゃ1つ1つのボケの印象が薄くなるだけ。余韻もクソもない。キレに自信がないからこそ意識的にそういうスタイルでやってるのかな。とにかく全然笑えないですね。こんなコンビが最終決戦に進んでしまった事が今回の悲劇の始まり。

オードリー

  • 1本目よりコント性が強くなった。選挙演説というさほど珍しくないシチュエーションだが、演説するのがツッコミ若林でボケ春日が群集を演じるところが新しい。コンビの距離感が遠いからこそ成立する構図。しかしコントっぽさが増した分、立候補者を演じるツッコミ若林の攻撃的なツッコミがほとんど見られなくなってしまった。二人の間のやりとりが少なくなった分ボケの数も増えているが、ツッコミが弱くなってボケの面白みが膨らまないという事態を招いた。生み出した漫才スタイルに自信を持って貫いていれば優勝だったに違いない。

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 どう見ても消去法による優勝者選出だったわけで。個人的に優勝決定戦に進むべきと感じたコンビはナイツとオードリーだけでした。それ以外のコンビはやや劣ってました。個人的に順位をつけるとこんな感じですかね。5位の笑い飯を85点とすれば以下の通り。しかし現実の審査員は1組目を基準として設定しなければいけないので採点するのが難しいでしょうね。
1.オードリー 95点
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2.ナイツ 92点
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3.ダイアン 89点
4.U字工事 88点
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5.笑い飯 85点
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6.モンスターエンジン 82点
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7.ザ・パンチ 79点
8.キングコング 78点
9.NON STYLE 76点
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 最終決戦のネタについてはナイツもオードリーもマイナス要素が顕著なネタであるのは否めない。NON STYLEは1本目と同クオリティであるというだけの理由で優勝の座を奪い取っていったとしか思えない。
 どっちが面白いのか、という観点での勝負でなく出来の良さという要素で勝敗が決まってしまったのであれば、決勝審査員にもう少ししっかりした審査基準を持ってもらいたいと思う。しかしオードリー以下、敗者の皆さんの奮起にも期待したい。NON STYLEのようなハリボテ漫才に優勝をかっさわれてしまってはいけない。
 しかし納得できないなぁ。「ボクの中ではダントツでした」だって? きっついなぁ。