オアシス&ブロークバック・マウンテン

 今年の春頃、自分の映画を撮ろうと覚悟を決めた後からやたら積極的に映画DVDをレンタルするようになった。アイディアを拝借しよう、勉強しよう、みたいな意識が無かったわけではないが、これは一種の逃避だった。生みの苦しみから目を背けていた。

 逃避だろうと勉強だろうとしっかり堪能できた。いくつか気に入った映画に出会えたので紹介させてもらいます。

 イ・チャンドン監督『オアシス/oasisTwitterでオススメしていただきました。社会にとことん適合できない男が出会った脳性麻痺の女性。同情されることすら許されない2人が紡いでいくラブストーリー。

 芝居の凄みと展開の上手さとテーマ性の深み、この三要素が「映画の軸」かなと考えているのですが、『オアシス』は「芝居の凄み」という要素で世界を圧倒できる映画です。それでいて

 脳性麻痺患者のキャラクターを映画に取り入れるだけでもかなり怖い事です。墓穴を掘るような行為。それでもそこに挑戦して完全に乗り越えている。脳性麻痺患者を演じているムン・ソリの演技は物凄い迫力。彼女が背負った痛みが、ある瞬間に消滅する。ハッとする切れ味の演出。

 痛いキャラクターを内包したシチュエーションだけで満足する映画ではなく、物語としてもしっかり展開していく。巧みでありながら自然。ラブストーリーの限界を広げた名作。

 続いて、アン・リー監督作品『ブロークバック・マウンテン/Brokeback Mountain』。『ダークナイト』でジョーカーを演じた後、公開を待たずして逝去したヒース・レジャーの代表作。

 個人的にヒース・レジャーの演じたジョーカーの凄みはあまり理解できていなかったのですが、ブロークバック・マウンテンで彼が演じているイニス・デルマーというキャラクターを見ると、ジョーカーとの違いが際立って、ヒースの役作りが圧倒的であることが分かります。

 ジョーカーというキャラクターも、イニス・デルマーというキャラクターも、勇気を持って挑戦した結果作り上げられたものなのです。演ずるという行為の深さをこれほどまでに感じさせる俳優に出会ったのは彼が初めてです。

 さて『ブロークバック・マウンテン』。これまたラブストーリーです。1960年代のアメリカ、夏山にキャンプを張って羊の見張りをする仕事についたイニスとジャック。誰からも干渉を受けない場所で同じ時間を過ごした2人は、やがてお互いへの欲望を爆発させる。

 一夏の過ちを乗り越えて正常な生活に戻っていく2人だが、同性に対する愛情を捨てきれず、焼かれるような痛みを覚えながら人生を歩んでいく。20年に及ぶ苦渋の叙事詩。これほど悲しみに満ちたラブストーリーは見たことがない。同性愛というモチーフで敬遠するのは勿体無い。

 とりあえずこの2本は素晴らしいです。いつか自分もこれくらい深いテーマ性を描けるだろうか。

 ラブストーリーってあまり見なかったけど、ジャンルで大別して食わず嫌いになるのは良くないですね。ジョセフ・ゴードン=レヴィット主演の『(500)日のサマー / (500)days of summer)』とかヒース・レジャー18歳時の主演作『恋のからさわぎ/10 things I hate about you』もオススメです。スカッとしたラブコメでありながら斬新な演出が盛りだくさんでハッピーになれます。