The East

2014/02/04に新宿シネマカリテで『ザ・イースト』を見ました。 http://www.foxmovies.jp/theeast/ ネタバレあります。
公開規模も小さいのでぼーっとしてたらスルーしてたと思いますが、映画評論家・町山智浩さんが2013年に見た作品のトップ10に挙げていたので興味を持ちました。強烈な現代社会風刺を含みながらも、サスペンス/スリラーとしての完成度が非常に高い、秀作でした。
主人公を演じた女優ブリット・マーリングは、この作品の脚本も自ら執筆。実体験を元にしたオリジナルでありながらも非常に優れたシナリオに仕上げており、さらにそれを自ら熱演。ハリウッドでもかなりの注目株みたいです。
環境保護を訴えるためにテロ活動を展開する組織への潜入を命じられる女性が主人公。彼女は元FBIであり、現在は民間警備会社に所属しています。
「The East」は環境汚染を繰り返す企業へテロ行為をしかけ、その様子を撮影した映像と犯行声明をYouTubeへ投稿する実体不明の組織です。
主人公がこの組織に接触し潜入するまでの過程がとても慎重に描かれており、リアリティを感じさせます。信用を勝ち取るために法を犯したり、自らの腕に深い切り傷を付けて治療の必要性を暗にアピールしたり。持っていた携帯電話を破壊されて連絡を取れなくなるのですが、潜入には成功します。
次に、イーストのアジトにたどり着いた主人公がメンバーから信頼されるためにリスクを侵していきます。なかなか組織の実体がつかめない中、エコロジー精神の一環として、スーパーマーケットの裏に廃棄されていた食材を食べたり、結束を高めるためにゲイ女性とキスしたりします。(してなかったかも。記憶曖昧)
とある夜にスパイらしく身を潜めながら諜報活動をしていると、自分の世話をしてくれている聾唖の女性に見つかってしまうのですが、手話で説得を試みて正体バレをなんとか防ぎます。その夜に聾唖女性は組織のアジトから姿を消すことを選びます。
これによってThe Eastが計画していたテロ行為が実行不可能の危機に陥るのですが、主人公が聾唖女性の代役に名乗り出てテロ実行犯として任命されることに。しかし計画の内容は計画当日になっても知らされないので防ぎようがありません。
この辺、主人公が感じるスリルと観客が感じるスリルが同化しているところがとても上手いですね。
製薬会社の懇親(集金?)パーティに招待客として潜入したThe Eastのメンバーは、所属メンバーの妹を自殺に追い込んだ強烈な副作用のある薬を、パーティで配られるシャンパンに混ぜ、薬の製造元の人間に飲ませようとします。主人公は計画の内容を把握した瞬間に、自分に色目を使ってきた男の携帯を使って自分の上司に報告するのですが「なるほど分かったわ。でもその製薬会社は顧客ではないので静観してスパイ活動を続けなさい」と言われます。
シャンパンを回収して被害を防ごうとする主人公ですが、客全員のシャンパンを回収することは出来ず、計画を防ぐことに失敗。パーティから去るThe Eastメンバーは高揚感と虚しさを同時に抱えながらアジトに戻ります。
The Eastは犯行声明を発表して製薬会社の出方を伺うのですが、会社のトップは「薬盛られたけど全然大丈夫よ?」とカメラの前でアピール。The Eastはテロ行為を失敗と認め、安全を考えて一時的に解散することになります。
いくらか時間が経過したところで、製薬会社のトップがテレビインタビューされている映像を目にする主人公。明らかにおかしな挙動を見せる手や、うつろな目、回らない呂律、なかなか言葉が口から出てこない・・・といった様子から、件の薬物に明らかな副作用があったことを理解します。
この結果を経て、主人公はThe Eastの大義に少しずつ共感を覚えていくわけです。副作用を伏せて特定の病気に対する特効薬であるかのように喧伝して莫大な金額を儲ける大企業。主人公はそういう企業を保護するために雇われている身なのですが、自分の仕事が正しい行為であると確信できなくなっていくのです。
そしてThe Eastは次なるテロのためにメンバーを招集。次なるテロの標的は何か? その計画に対して主人公はどのような行動を選択していくのか・・・
改めて振り返ってみると、深いテーマ性と、エンターテイメント的な展開の融合に成功しているなーと感じます。東京でも公開は終わったと思いますが、DVD化された際には是非見ていただきたい作品。
『トゥルーブラッド』というTVドラマシリーズで人気を博したというアレキサンダー・スカルスガルドが演じるThe Eastのリーダーもかなりの存在感です。あとは『ハードキャンディ』で援交男に大いなる罰を与える少女や『インセプション』の設計師アリアドネ役などで鮮烈な演技を見せる女優エレン・ペイジにも注目。彼女はつい最近ゲイであることを公表しましたが、言われてみるとそういう空気が出てる気がしますよ。
2月の映画見まくりシリーズはこの作品から始まりましたが、とても有意義な時間を過ごせました。
The Eastがその名称に込めた意味を知った時に泣いてしまいました。あとは主人公が川で沐浴している時にThe Eastのリーダーから「君の足を洗ってもいいかい?」と問われて、YESの意味でうなずくのですが、「言葉で言ってくれないと不安だ」と促されて「私の足を洗ってもいいわよ」と答える場面で何故か泣きました。
最近映画見てる時のチルは涙腺ゆるゆるだけど、単純に自分の感度が高まっているからだと思いたい。