新しき世界

2014/02/10、新宿シネマートにて『新しき世界』を見ました。 http://www.atarashikisekai.ayapro.ne.jp/ 韓国映画です。巨大企業と化した韓国最大級の暴力団に潜入した警察官が主人公です。
ハリウッドがリメイク権を獲得!とか言われると、よほど脚本が斬新で、誰が撮ってもコケない系の物語かと思ってしまいがち。
でもチルは新しき世界のシナリオに違和感を覚えてしまいました。ネタバレします。
具体的に言いますが、潜入捜査してる主人公が、兄弟分のヤクザ幹部に倉庫まで呼び出される。その前のシーンでは主人公と通じあって連絡係をしていた女性刑事が、ヤクザの鉄砲玉軍団にアジトを突き止められて突入されてます。
倉庫の真ん中に置かれたドラム缶にの中は、尊厳を奪い尽くされた連絡係が瀕死の状態。それを見る前から主人公は滝のような汗を浮かべ、身分がバレたことと己の死を覚悟しているのですが、兄弟分は主人公ではなく、自分の右腕的な部下をスコップで殴り殺します。
この緊張感に満ちたシーンが高く評価されてるのかもしれませんが、潜入捜査官同士の連絡が全く無いままに組織の急所を突こうとしていた警察の方針がいまいち受け入れられない。スリルを生みたい製作側にとって都合良すぎる展開というか。
あとは主人公に主体性がほとんど見られず、がんじがらめになってようやく動く展開も乗れない。上からの命令に対して不満の声を上げながら静観するしかない時間帯の長さにじれったさを覚えました。
主体性に欠けるからこそキレた時に大胆な奇策をぶちあげられたのかもしれませんけど、そこに説得力があるにしても、動かない主人公、主人公を動かさない展開に魅力を感じませんでした。
あとは、韓国サスペンスでは女性が酷い目に合わないと審査通らないのかな? なんて思うくらい女性キャラが救われないんですよね。連絡員はさらなる蹂躙を避けるために主人公に「殺して」と目で訴えて頭を銃で撃ちぬかれます。主人公の妻は、自宅がヤクザの対抗勢力に踏み込まれたショックで流産。
例えば、同じように潜入捜査を描いた名作『インファナル・アフェア』。潜入捜査する刑事は恋人さえもいない孤独なキャラクターでした。新しき世界の主人公がヤクザとしての虚飾を必要とする立場だったとはいえ、ギリギリの緊張感を生きるのに妻子とともに幸せな家庭を築こうとするのは愚かな行為だと思うのです。
その辺りがチルの感じた違和感です。その違和感を乗り越えられなかったので「会心の一本!」という手応えが得られませんでしたが、世界観はかなり好きです。予告編見てるとワクワクします。でもインファナルアフェアのような気持ち良さが無かったですね。それだけ難しいところに挑戦してるとも言えるけど。
バイオレンス描写はバリエーション豊富で面白かったです。主人公の兄弟分が襲撃を受ける場面はしつこいくらいのリアルな殺し合い。銃は使わずにドスが大活躍。パンチやキックで頑張る日本のヤンキー映画とは痛みの度合いが違います。
その流れでエレベータに追い詰められて、個室内で繰り広げられる刺しつ刺されつの限界アクション。まだ死なないの!?と言いたくなる描写は韓国映画らしいインパクトがあります。『アジョシ』のオーラスナイフバトルや、『悪魔を見た』の車内殺し合いに匹敵する名場面かも。
今作で、主人公の兄弟分のライバル的な位置にいるヤクザの幹部を演じてた小薮(新喜劇)に似た兄さんは『チェイサー』でデリヘル店長の下で働くスキンヘッド野郎やってた人で、「この顔どっかで見たなー」と思ってから答えに到達するまでの時間差がちょうど気持ち良かったです。
主人公の上司チェ・ミンシクは助演に徹してる感じかな。主人公を演じるのは『10人の泥棒たち』でコミカルな演技を見せていたイ・ジョンジェ。脚本が脚本だけに、主演らしい劇的な芝居を引き出せていなかった気がします。
主人公の兄弟分を演じたファン・ジョンミンはタフで快活で、その裏に持つ暴力性がちゃんと表現されていて好感を持ちました。この人の芝居で劇場内に笑いが生まれまくっていて面食らいました。『ユア・マイ・サンシャイン』で有名になった人なんですね。見てみようかな。