光にふれる

2014/02/10に新宿シネマートで『光にふれる』を見ました。 http://hikari-fureru.jp/ シネマートは月曜日がメンズデー! 男性は終日¥1000で観賞できます。
実在する盲目のプロピアニスト/作曲家であるホァン・ユィシアン(1987年生まれ)。彼の半生を、彼自身の主演で描いた長編映画です。
まずは予告編を見ていただきたいのですが、チルはこの予告編だけで涙ダダ漏れでして・・・盲人として孤独を味わいながらも逆境を乗り越えようとする姿とか、バンドやろうぜ!のノリとか、母親の愛情とか、涙腺にビンビン攻め込んできやがります。

大きな期待感と、号泣の確信を持ちながら本作を見たところ、予想以上のハイクオリティなシナリオと編集に圧倒されっぱなし。序盤から涙が流れまくりで、途中から拭うことすら諦めました。本当に素晴らしい映画です!!
主人公ユィシアンは先天的に目が見えないものの、幼少期からピアニストとして圧倒的な才能を発揮して数々の実績を残してきた。田舎で家族と共に暮らしてきたユィシアンは大学進学を決意。大都会台北で家族を頼らない寮生活を始めることに。
大学生活2日目までは母親がユィシアンを世話するのですが、この母子の距離感が…あるある! わかる! って感じなんですよ! 決して、盲人とその母親というレアな関係を描いてるだけじゃないんです。
過度な世話はするべきじゃないのか? と距離感を図りかねる母親、そんな母親の思いを感じながらも「大丈夫だよ」と心配させまいとするユィシアンの強がり。見に覚えがあるのはチルだけじゃないはず。この辺の描写センスが素晴らしいです。
ユィシアンのピアノの才能は大学という場所でもなかなか認められず、作品前半では「めんどくさいやつ」としてクラスメイトから距離を置かれる感じを中心に描かれていきます。
その環境に適応するため、寮から教室まで案内なしでたどり着くために、道のりを記憶しようと奮闘するユィシアン。彼が照明の消えた校内を歩く姿だけでボロボロ泣けるチルです。
真っ暗な寮の自室へ帰ってくると同じ部屋に住むルームメイトがイビキをかいて寝ている。体育科のお調子者デブ野郎・チン。ノリの良いチンはユィシアンが盲人であることを気にすることもなく、SM部(スーパー・ミュージック)の部員勧誘にユィシアンを引っ張り出す。
部員勧誘をしている中でユィシアンに好みの女性のタイプを尋ねる。「やさしい人だね。あとは声がきれいなこと」と答えるユィシアン。構内にデリバリーでドリンクを配達しに来ていた女性の声が気になる。チンは「あの子、性格悪そうだぜ」と一蹴する。
街中で車道の横断に手間取ったユィシアンが中央分離帯でアタフタしていると、そこに原チャリに乗った女性が通りがかってユィシアンを歩道に案内する。「あなたはこの前大学に来ませんでしたか?」と尋ねるユィシアン。ドリンク配達のバイトをしているヒロイン・シャオジエとの出会いを果たす。鋭敏な聴覚を持つユィシアンのキャラクターをうまく取り入れた展開です。
前向きに生きるユィシアンに感化されたシャオジエは、意欲を失っていたダンスへの思いを再燃させていく。ユィシアンは周囲にもピアノの才能を認められていき、担任からはコンクール出場を薦められるものの、過去に背負ったトラウマを払拭できず出場を固辞する。
この、ユィシアンが自分の才能にどう向き合えば良いかわからないままに生きていく様子がとてもスリリングなんです。観客はユィシアンが実在する天才的なピアニストであることを理解しているのですが、物語がどう展開していくかは予想ができない。
ユィシアンとシャオジエは自然と同じ時間を過ごすようになり、心を通じ合わせていく。2人でユィシアンの故郷に行き、シャオジエは彼の家族と会う。「お姉ちゃんはお兄ちゃんの恋人なの?」と寝室でしつこく尋ねる妹が可愛い。
2人で海に行き、シャオジエはユィシアンに杖を置いて走るように促す。杖なしで波打ち際を走るユィシアンの姿を見た時にめちゃめちゃ泣いてしまいました。こういう何気ない描写が情感的で監督のセンスをビンビン感じます。
ダンスのレッスンを重ねた結果、オーディションを受ける決心をするシャオジエ。一方でユィシアンはコンクールと同日に行われる文化祭にSM部と一緒にバンドを組んで出場しようとする。2人はどんな結末を迎えるのか? それは見てのお楽しみで!
クライマックスでユィシアンが見せるオリジナル曲の演奏シーンは爆発的な感動を与えてくれます。編集のウデも完璧で、映画という表現の可能性を存分に見せつけてくれます。いかにもフィクションな演出が入るのですが、脳みそがヘロヘロになってたチルは諸手を上げて大歓迎!
なんといっても、実際に目が見えないユィシアン氏が映画に出演するという事の意味ですよ!! 自分の目で見ることが出来ない作品のために、自分を客観視することさえ出来ない人物がベストを尽くす姿…感動を生み出さないわけがない。鑑賞後に目がヒリヒリ痛むくらい涙を流しました。
ドラマ性が構築されていく手順も素晴らしく、編集も目を見張るべきものがあります。単なる感動作に収まるような作品ではないのです。監督のチャン・ロンジーという名前は覚えておいて損はないと思います。めちゃめちゃオススメの一本です!!