TNGパトレイバー第一章

 2014/04/05、シネマサンシャイン池袋で 『THE NEXT GENERATION パトレイバー』 第一章を見てきました。

http://patlabor-nextgeneration.com/

 TNGパトレイバーは各章¥1200で見れます。皆さんご覧ください!

 1980年代終わりから1990年代にかけて人気を博した『機動警察パトレイバー』。私はリアルタイムでハマっていた世代ではないのですが、押井守という日本有数の映画作家に触れるうちにパトレイバーも全作品おさらいするに至りました。

 なかでも『機動警察パトレイバーThe Movie 2』はチルのオールタイムベスト映画です。最初見た時はポカーンでしたけどね!

 ロボットアニメを実写化。ロボット大好きな日本でもなかなか実行に移せなかったプロジェクトですが、結局は押井守が手がけることに。

 能書きは置いときましょう。

 今回公開された『第一章』は、エピソード0『栄光の特車二課』とエピソード1『三代目出動せよ』の2本をまとめたもの。各エピソード48分。エピソード0はもっと短いです。

 エピソード0はパトレイバーの世界観と、TNGパトレイバーの時代背景を説明し、特車2課のメンバーを紹介するナレーション過多な一本。映像に載せるにしては小難しすぎるくらいの言い回し・文体が気持ち良いです。「おやっさん」の魂を受け継いだ二課整備班長シバシゲオというキャラクターが嘆きを交えながら語ります。

 映像としては、アニメ版でもよく見られた「朝一でシゲさんが歯磨きしてる」光景を班長になったシゲさんが実写でやってます。古くからのファンにとっては嬉しい映像です。シゲさんが絶対的な権力を持っていて、整備班が過剰な接待をする様子はなかなか斬新な面白さ。

 第三世代の第二小隊組として真野恵里菜演じる泉野明(いずみの・あきら)が登場しますが、カメラは明の顔がしっかり見えないように撮ってます。

 パトレイバーに留まらず二足歩行ロボットを根本的な面から語り始めるシゲさんの論調には、パトレイバースピンオフ『ミニパト』でも見られた自嘲混じりのロボットもの批判がモロに乗っかってきて面白いです。

 名も無き整備班キャラクターたちによる「隊歌」合唱がクライマックス。パトレイバーの空気が実写になったという事、押井守のコメディセンスが実写でもしっかり具現化可能である事を実感させてくれます。

 そしてエピソード1。複数のテーマがしっかり感じられるシナリオでした。特車二課メンバーの個性をしっかり見せる。特車二課の怠惰な日常生活を見せる。パトレイバー出動の高揚感と、肩透かし。現場シーンにおける巨大スケールの肩透かし。48分間にこれだけの要素を詰め込んだ腕力に感動です。

 三代目の二課メンバーは初代メンバーとは似て非なる面子。様々な面で初代よりもダメっぷりに磨きがかかっていて、ヒーローとしての資質を「感じさせないように」頑張ってます。明役の真野ちゃんや佑馬役の福士誠治さんは流石にキリリなビジュアルですけど。

 初代でいうところの太田、進士、山崎に関してはルックス面がかけ離れているので正確な実写化を望む一部のファンには不評でしょうけど、芝居(特に笑いを生み出す能力)を重視したキャスティングを意識しているんだと思います。あくまでも初代とは別のキャラなので、ルックスを再現しようとしたら白々しい媚びでしかないんですけどね。
  
 キャラクターをしっかり見せながら好感を持たせないようにしているのは、今後のエピソードで各メンバーにスポットを当てていくからでしょう。

 こんなキャラクターたちが描いたエピソード1は、特車二課の何気ない1日を描いています。朝に当直を引き継いで勤務を開始する明、佑馬、山崎の3人を中心に、明と佑馬の距離感や、貧弱な食事事情、ブラックな企業体制における人権蹂躙などが語られていきます。

 この語り口はパトレイバーアニメシリーズ特有の「外したトーン」であり、のちの『踊る大捜査線』に影響を与えてますね。

 隊員紹介シーンは舞台・芝居を見てるような流れです。明が登場、佑馬が登場、太田原と神酒屋がいる、カーシャが登場して、山崎が登場する。舞台上に役者が登場するように自然な構成。笑いもテンポ良く混じってます。

 後藤田隊長の登場は引っ張ります。美味しいタイミングで登場します。

 昼食を取るシーン。埋立地にこもっている特車二課は、バイクで行かざるを得ないくらい遠い場所にあるコンビニか、ロクに注文を受けようとしない中華料理屋の出前しか食料調達ルートが無いのです。この設定はパトレイバーシリーズのお約束。中華料理店・上海亭は思いの外ガッツリ描写されてて、今後のエピソードでどう登場してくれるか楽しみです。

 明、佑馬、山崎の3人が夜食を食べるシーン。ディレクターが役者に「カップラーメンを面白く食べてみてください」と無茶ぶりしたかのようなナチュラル描写なのですが、ちゃんと笑いにつながってました。割と若くて綺麗な顔した役者2人による掛け合いなのに笑えるってのは立派です。

 労働環境の苛酷さを訴える描写では『立喰師列伝』のような実写切り貼りアニメーションが出てきて笑えました。

 日常描写だけでもしっかり面白いのですが、この作品が映画『パトレイバー』に成るためにも、パトレイバー=98式AVに仕事をしてもらわないといけません。つまり出動です。

 実物のレイバーに搭乗する真野ちゃん、指揮車に搭乗する佑馬。それなりに真剣な働きっぷりを見せる整備班。パシフィック・リムでも興奮はありましたが、レイバーも指揮車もキャリア(レイバー搭載トレーラー)も本物の本作では出動シーンの高揚感が凄い!!

 しかもこの高揚感を、「出動命令は誤報でしたー」「また出動命令だー」「また誤報だー」という一種の天丼による繰り返しで何度も味あわせてくれるサービス精神(笑)

 「時間を生み出す」アニメーションと「時間を切り取る」実写作品という認識の私ですが、仕方なしに時間を埋めるためリピートしがちなアニメ的手法を実写でやってるのが面白かったです。実際にこの天丼はウケてました。

 出動の下りになってようやく登場する後藤田隊長。早々に笑いを持っていきます。ちなみにこの後藤田というキャラが背負ってるパーソナリティが、いかにもゼロ年代以降の押井守っぽくて笑えました。(これはパトレイバー小説『番狂わせ』でたっぷり描かれてる要素)

 誤報の繰り返しの末、佑馬はコンビニに買い出し中。コンビニのテレビのニュース速報を見て今度こそ本当にレイバーがらみの事件が起きたと知るくだりは天丼の外し方として綺麗でした。

 というわけで今度こそ出動。隊長の乗ったミニパト、指揮車、パトレイバーを載せたキャリアが実際の道路を走る光景はやっぱり感動しました。今後は実写要素とエキストラを集めたモブシーンがどうからんでいくかが楽しみです。 

 エピソード1で登場する「犯罪レイバー」はかつての「ピッケルくん」のようなスピード感や派手さはありません。いかにも工業用ですが、ほとんど動きません。でも実写です。実写のロボットですよ!

 実写ロボットと実写ロボットが対峙!(してない気がするぞ? 同じカットに映ったっけ?)

 この場面でも、パトレイバーの派手なアクションは見られません。この場面で描かれるのはパトレイバーの性能ではなく、パトレイバーに乗っている自覚に欠ける特車二課の隊員です。後藤田隊長によるゆるゆるの説得の後でいよいよ実力行使しか手段がなくなり、リボルバーカノンを構えるも、撃つのを嫌がる明。
 
 発射した瞬間のスローモーションオチは、劇場版『パト1』の最初の出動シーンへのセルフオマージュのような空気になっていて面白かったです。映画館でも大ウケでした。

 要するにこの第一章では色んな期待をハズした作りになっているのですが、前振りの段階でブーブー言うのは無粋というもの。あらゆる描写が、エピソードを重ねていった頃に伏線として回収されていくんだろうなと思うとワクワクしました。

 単に伏線を張るだけのエピソードではなく、コメディとしての掛け合いの面白さや実写での大型ロボットの実現など、意義ある作品でした。この作品を見て「こんなのパトレイバーじゃない」といちゃもんつけるやつはパトレイバーというものの本質を全く理解してないので黙ってるといいですよ。



 上映後には第二章=エピソード2とエピソード3の予告編が流れました。アクションする98式AVの姿はここで確認できました。第二章でもレイバーvsレイバーのがっつり格闘シーンなどは見られないようですが、徐々に盛り上がっていくだろうことは明らかなので今後もパトレイバーの世界観に浸らせてもらおうかと思います。