薄氷の殺人

薄氷の殺人を観ました。2015年1月13日、ヒューマントラストシネマズ有楽町にて。



http://www.thin-ice-murder.com/








 あまり好きじゃないタイプの映画だったので出来るだけ省エネで書きますよー。



 とか思ってたんですけど…エントリ書いてるうちに、この映画の脚本に論理的な説得力を見出したので評価急上昇中です。とりあえずあらすじ書きます。





 刑事を辞めて自棄になり自堕落な生活を送っていた男が、5年前の未解決殺人事件の関係者である美女と再会して人生の歯車を狂わせていく。ノワールの典型ですね。



 1999年夏、刑事としてバラバラ殺人事件の捜査に当たっていた主人公だが、複雑に絡み合った状況のせいで解決に至らず。死亡した男の妻は泣き続け、まともな証言も得られない状態。とある容疑者を逮捕しようとした際にハプニング的な銃撃戦が発生し、容疑者2人と刑事2人が死亡するという最悪の結末を迎える。



 この「容疑者確保しようとしたら銃撃戦になっちゃいました」シーンはめちゃ秀逸で、観客を挑発する意欲に満ちていてとても刺激的。北野武HANA-BI』の地下鉄駅内銃撃戦を想起させるような驚きがあり、なおかつ長回しなのでショッキングでした。



 1999年に被害者の妻が泣いていたのはストーリー展開にひねりをもたらすトリックになっています。要するに、「あの時あの女の顔を見ていたら主人公の人生も変わっていたかも」という構図。



 しかしそのフリとして「手で顔を隠して泣く女」という小手先の仕掛けは感心しない。芝居を見ていて「この時点で顔を見せないことによって展開につながるのかも」という違和感はあったけど、その伏線によって得られる結果がちょっとショボいかなあ。



 しかしこの1999年パートを観ている分には、この監督いろいろと面白い演出を盛り込むから好きだなあ…なんて感じてました。



 2004年・冬。主人公は未亡人となった女と再会して一目惚れし、生きる目的を見出していきます。5年遅れでやってきたファム・ファタルとの出会いです。



 夫を失ったまま5年間の時を過ごした女に対し、刑事の肩書を失った主人公はつきまとうように接し、力になろうとします。かつて諦めざるを得なかった事件の真相を突き止めること、そこに己の全てを捧げようとします。



 その動機はおそらくただの性欲。トラウマの影響で彼女の事がほっとけない…みたいな美談めいた要素は皆無です。と、思ってたんですが! 後の展開を理解すると主人公のスタンスが見えてきます。叙述トリックとも言える緻密な演出には参りました!



 主人公は女の近辺を調べるうちに事件の真相をだんだんと把握。そして元同僚の刑事から、スケートリンクで遊んでいた人物がバラバラ殺人の被害に合ったという情報を手に入れます。



 刑事からの情報でスケートリンクに来ている客を怪しむ主人公が、女をスケートデートに誘って出方を伺う。主人公と女が移動し、その後ろを付いていく怪しい男を刑事が逮捕しようとするも、スケート靴を凶器に使う男からの反撃にあって殉職。



 主人公は女と殺人犯が現在も繋がっていることを理解し、かつての仲間であった刑事を殺した犯人を追い詰めていきます。男の尾行を続けると、殺人犯はバラバラにした刑事の死体を橋の上から石炭を積んだ列車の貨物に投げ入れます。1999年の事件で、一人分の死体が遠く離れた別々の場所で発見されたわけを理解します。



 殺人犯の存在を確信した主人公は女に真相を迫る。女は主人公に、5年前の事件の真実を語り…



 おそらくここから先の展開はネタバレしないほうが良さそうなので書かないでおきます。



 改めてまとめてみると、とてもロジカルで整然としたミステリーだなと理解できました。Twitterで不満爆発させてごめんなさい。ノワール映画のように見せておいて…そこからのどんでん返しがある鮮やかな脚本と言っても良いでしょう。



 演出がシンプルすぎてやや理解できない部分もあったのですが、現実の事件をベースにしてこれだけしっかりしたドラマを作り上げる手腕は認めざるを得ません。ポン・ジュノのような明快な演出は見れないものの、これはこれでリアリティと味わい深さが感じられます。



 理解できないまま見終わってしまったので不満が残りましたが、改めてもう1度見て演出の細部まで感じながら観賞したい作品です。2015年最初に見た映画としてはなかなか良い滑り出しでしたよ。ミステリー/ノワール好きなら見て損はなし!なにしろベルリン国際映画祭金熊賞・男優賞を受賞した作品ですから奥深いですよ。



 ちなみに…チルことヨシダジョージが原案&仕上げを担当した[k*ss]というシナリオ(共同脚本・木村氏)はジャンル的にノワール/ミステリなので、これを機に是非読んでいただきたいです!



長編シナリオ[k*ss]

http://www.dd.iij4u.or.jp/~girl2/third/honpen.html