KANO 1931 海の向こうの甲子園

KANO 1931海の向こうの甲子園を見ました。2015年1月26日。角川シネマズ有楽町にて。



http://kano1931.com/intro.html 






 日本の映画祭でもすでに上映されていて「めちゃめちゃ泣ける」という評判が伝わっていた台湾映画。日本軍vs台湾先住民族の抗争を描いた大作映画『セデック・バレ』の監督が脚本と製作総指揮を担当。『セデック・バレ』に出演していたキャストのうちの1人が今作で監督としてデビューしたそうです。



 台湾の高校生チームが全国高校野球大会で甲子園を訪れ、快進撃を見せた…という史実に基づく映画です。野球で感動。似たような映画が同時期に日本公開されてますけど。さてどうなんでしょ。







 大傑作!!

 涙をぬぐうのが疎ましい系の感動大作でした! 場内からはすすり泣きの音が止まない!

 しかし悲劇的側面を押し出したウェット一辺倒なありがち映画じゃなくて、スポーツドラマとして非常に高次元でまとまった真っ当な映画です。

 それではあらすじを。

 ポツダム宣言まで日本の統治下に置かれていた台湾。

 オープニングは終戦間近の台湾。機関車に乗っている日本兵が「嘉義についたら起こしてくれ…それまで眠る…」とつぶやく。

 1931年、満員の観客が埋め尽くす甲子園球場。全出場校が揃う開会式に遅刻するチームの姿があった。監督らしき人物が一喝すると、彼らはグラウンドに一礼して整列する。

 時間は地方の小さな町である嘉義を歩いていた日本人教師・近藤は野球の練習を純粋に楽しんでいる少年=嘉義農林学校の生徒たちを見かける。外野を大きく飛び越えたボールが近藤の元へ…「あぶない!」

 とっさに素手でダイレクトキャッチする近藤。そのボールを返すと、少年は近藤の佇まいに怪訝とした表情を浮かべるが、すぐさま物凄い強肩で内野へ放り投げてみせる。

 嘉義農林学校野球部には監督がいないため、遊び感覚の部員がほとんど。近藤は松山商業を率いて甲子園出場経験を持っており、嘉農の指導を頼まれているものの、なかなか決断に至らず。というより、決断の場面を省略することで嘉農野球部の前に突然現れた謎の男、というキャラを引き立てています。

 近藤は出会い頭に「監督になった近藤兵太郎だ。よろしくたのむ」「まずは町内一周ランニング!遅刻者がいる?なら二周してこい!」といきなり檄を飛ばす。

 基本的に近藤と生徒たちの間に衝突はほとんどなく、素直で真摯な教え子たちの姿に率直な感動を覚えます。近藤の指導も理不尽さはなく、野球少年にとって理想的な師であることが分かります。

 スポンジのように技術を吸収し、成長していく少年たちの様を描いていくのですが、試合ではそう簡単に勝てません。

 近藤の監督就任後に初めて行われた練習試合でもまるっきり勝ち目がなく、大人と子供のような実力差を見せつけられるのですが、この試合で1つのアウトを取る度に歓喜する姿、ヒットを1本打って歓喜する姿に、なぜか心を揺さぶられるのです。

 相手バッターを打ち取れたら嬉しい。出塁できたら嬉しい。相手から三振を奪えたら嬉しい。ホームインして得点できたら嬉しい。そういった、野球というスポーツにある原点的な喜びにちゃんと焦点を当てたシーンになってるんですね。この時点で既に泣けました。ヒット打って喜んでいたら走りすぎて挟殺。でもチーム初打点を上げた彼をみんなで祝福。ツボをついてくるぅ!

 この初戦の後で近藤の過去についての描写がインサートされます。結果が出せなかった時に激昂し生徒に当たり散らすなど、指導者として未熟だった頃の近藤が、野球人として未熟な嘉農の部員たちと重なるんですね。近藤のキャラクターもしっかり掘り下げているところが偉い。

 嘉農野球部員が、同じ町内にある他校の生徒(野球部)とケンカになるシークエンスの後で、「ケンカはグラウンドの上でやれ!」と近藤が叱りつけてその高校と試合をする展開になるのですが、相手チームを安易なヒール役にせず、どちらも必死に勝利を目指す高校球児として描いているのに感心。

 そしてこの試合にも嘉農は負け、3年生バッテリーにとっての最後の試合にも勝利を飾ることが出来ないのです。「ここで負けるのか!」という驚きと、「3年生が現役最後の試合に賭ける思い」をちゃんと描いているところに感服。

 野球シーンの撮り方も的確で、ただのダブルプレーでさえ感動的に見えます。捕球したボールを投げるフォームが全員しっかりしてるんですよね。役者というより野球経験者で固めたキャストらしいので、動作にウソくささが無い。

 嘉農野球部が本格始動してから2年目、いよいよチームの快進撃が始まります。

 エースピッチャーは豪快なトルネード投法のイケメン・呉明捷が襲名。通称アキラを演じるのは現役の野球選手として21歳以下の台湾代表に選ばれ、国際大会でベストナインを取ったツァオ・ヨウニン君なのですが、とにかく顔がカッコ良いので役者にしか見えません!

 そんな彼が見せる芝居が素晴らしく、野球のフォームもカッコ良く、さらには殆ど日本語のセリフもうまい。説得力がありすぎる名演技だったと思います。今や国民的スターになっちゃったみたいですよ。

 エースのアキラを中心とした嘉農野球部ですが、他にもしっかり濃いキャラがいっぱい。先頭バッターの平野は選球眼に優れた俊足。主砲の蘇は登場シーンから天性の長距離バッターとして描かれています。こういう積み重ねがあるからこそスポーツドラマが感動的になるんですよね。

 それ以降の試合シーンも、野球ファンならニンマリしてしまう瞬間がてんこ盛り!満塁のピンチでセットアップを捨ててワインドアップで投げるとか、台湾地区予選の決勝でディレイドスチールのサインを出して成功するとか、野球への思い入れがちゃんと感じられるんですよ。本当に素晴らしいです。

 嘉農は甲子園の切符を手に入れ、嘉義の町が大フィーバーになるのですが、そこからの展開はここで語らないでおきます。

 最後の最後まで気の利いたカメラワークでドラマを盛り上げていて、撮影監督の熱意がとんでもないです。スポーツを題材にしているからというレベルじゃなく、映画人としてとっても素晴らしい。戦時中の台湾に大きな感動を与えた嘉農野球部と、彼らを率いた近藤兵太郎という人物に最大限の敬意を払った映画です。

 追い込まれたピッチャーが牽制球するしかない心理とか、痛打を食らった相手ピッチャーがベースカバーできないくらいに呆然とする描写とか、嘉農の相手をしっかり描くことによって嘉農の選手を光らせるなどのテクニックも凄い。

 とにかく野球好きなら絶対に見なきゃいけない映画だと思うし、集団スポーツを描いた映画としても、戦時に起こった奇跡のような物語に触れるという意味でも、見る価値が絶対にある作品だと思います。

「俺たちはいつになったら泣いていいんですか?」

 こんなに熱いセリフを外国の映画人に書かれてしまうのは悔しいけど、でもすがすがしいほどに良い映画です。1月に見た映画ではKANOがダントツに良かったです。超オススメ!!!

 KANOの快進撃という感動的な出来事があった1931年の翌年に、セデック・バレの元になった霧社事件が起こったそうですよ。どちらも日本にとって簡単に忘れてはいけない事実。映画でその一端に触れるのも良いのでは?