神の一手

神の一手、見ました。

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ちょっとしたキャプションと、この画面だけで十分な訴求力。半裸マッチョ野郎二人が向き合って囲碁打ってる。怪作の予感しかしませんよね。去年の映画秘宝記事を読んだ時からずっと気になってた作品。

これまた韓国映画なのですが、チルが選ぶ2014年映画ランキング第7位『監視者たち』にて、悪役として圧倒的な輝きを放っていたチョン・ウソンが主演。復讐を果たそうとするプロ棋士を演じています。

あらすじ。

プロ棋士の主人公は兄に頼まれて、賭け囲碁の指示役を受け持つ。莫大な金額を賭けヤクザとの勝負に臨んだ兄弟だったが、プロを凌駕する打ち筋に苦戦。

無線の故障で連絡が途絶えるうちに兄は負けを決定付ける手を打ってしまう。そのまま敗北した兄はヤクザに殺され、主人公はその罪を背負わされて刑務所へ。

復讐を誓った主人公は刑務所で出会ったヤクザに囲碁を教え、見返りとして喧嘩の技術を叩き込まれる。

気弱なメガネ棋士から、スーツの似合うマッチョに成長した主人公は、兄を殺したヤクザへの復讐を開始する…

以上、ここまでが導入部といえるでしょう。 復讐ものとしての前フリは磐石ですね。兄のダメ人間っぷりが強いために「愛する人を奪われた」という怨恨要素は薄くなっているものの、濡れ衣によって何年もの時間を奪われたという、もうひとつの理由が主人公を駆り立てるわけです。

構図が『オールドボーイ』に近いという発想は映画秘宝江頭2:50レビューを見るまで思い浮かばなかったですね。

前フリパートで不満な点は、「兄が殺されなければいけない理由が見えづらい」、「主人公が強くなる過程はもう少し綿密に描いてほしい」といったところ。

前者は「兄は生命保険をかけられていて、その受取人がヤクザである」「それゆえに殺される」とか理屈が必要。見落としてるだけかもしれないし、それくらいの背景は想像つくだろ、と言われるとその通りなんですけどね。

主人公が強くなる流れは描写がやや浅い。弱々しいバージョンの山田孝之みたいなルックスから187cmの逆三角形体型に至るまでには絶対ハードな筋トレシーンが必要だと思います。

喧嘩の技術もただ殴りあうだけで、ヤクザ直伝で実戦的なテクニックを教わるとか、あってしかるべき。それがあれば後半の伏線にもなるのに。

しかしそういった惜しい部分以外の雰囲気作りは見事。ヤクザ軍団の面子の濃さはバッチリだし、ヤクザ側につく女の棋士の正体は? 兄に付いていたおしゃべりくそ野郎の行方は? 刑務所の独房で主人公と囲碁勝負を繰り返し、勝ち続けた男はどこの誰なのか? といったフックがてんこ盛り。

出所した主人公は兄殺しのヤクザを追跡するとともに、復讐するためのチーム作りを進めていきます。ヤクザの前に参上して「もう一度囲碁で勝負だ!」とか「喧嘩でおまえをぶちのめす!」と言ったところで相手にされませんからね。

主人公に匹敵する囲碁の達人、スパイ役に適したお調子者、精密な無線装置を作り出すエンジニア…

つまりこの作品は「ケイパー・ムービー」になっていきます。ヤクザに恨みを持つ男たちが復讐を果たそうとする熱いチームもの。主人公の静かな復讐ものと思っていたのでこの展開には驚いたし大興奮!

ヤクザ相手に直接囲碁勝負をするのは盲目のベテラン棋士・通称ジーザス。韓国映画ではお馴染みの名優(名前あとでググっておきます)が演じています。

ちなみに、テーブルゲームで違法な賭けをするというヒリヒリする世界観は福本伸行の漫画『アカギ』を思い出させるわけですが、アカギにも盲目の雀士・市川が登場します。

この映画のジーザスはめちゃめちゃ深い役で、ホームレスでありながら盲人用の碁石と碁盤で囲碁を打つ天才。別離の憂き目にあった娘との感動エピソードなど、第2の主人公といってもいいくらい。

兄とも組んでいたお調子者キャラ。こいつがとんでもなくイキイキした芝居を見せていてすげーインパクト! 韓国映画界には数々のコメディリリーフが存在しますが、今後も色んな監督に呼ばれるであろう物凄い存在感!

演出の力もあるでしょうけど、シリアスな展開に笑いと緩みをもたらす存在として大活躍でした。

敵キャラも非情にバラエティ豊か。水谷豊風のボス、亀田三兄弟風の手下、時を経て色気を増した女棋士、その女棋士を遥かにしのぐ力量を持った天才囲碁少年…

復讐者チームとヤクザチームの騙し合い潰しあい戦争が静かに勃発。

それに前後してチョン・ウソン演じる主人公のアクションシーンが要所要所に的確なバランスで配置されていて、知的な戦いと肉体で語る戦いが交互に描かれていきます。

チョン・ウソンラブロマンス系作品でブイブイ言わせてきた韓国映画界随一のいい男ですが、187cmの体格を生かしたアクションも堂に入っていて、キレキレ。クールさと熱さの同居を見事に体現。

ヤクザの手下をデコピンで拷問するシーンはタメが効いててすげえ痛そう。最後にはデコピンの域を外れた○ピンでノックアウト。韓国映画の拷問シーンは素晴らしいですね。

亀田三兄弟風の手下にタイマンを仕掛けるシーン。囲碁での真っ向勝負を仕掛けるのですが、最初に仕掛けた喧嘩の段階で既に格の違いを見せつけているのに、そこから冷凍室へ連れ込んでの氷点下囲碁バトルを開始! ぶっ飛んだ発想にワクテカです。

ちなみに、この映画の中で描かれる囲碁対局はプロの目から見ても説得力があるハイレベルな打ち筋だそうですよ。チルは囲碁知識ゼロでしたが、囲碁が解る人ならなお一層楽しめる映画のです!

囲碁で勝てないと悟った亀田は主人公に殴りかかります。喧嘩の始まり。冷凍室アクションならではのアイデアはほとんど無かったですが、喧嘩でも圧勝した主人公が亀田に課す「生きるための手段」が詰め囲碁の死活問題。「問題の答えがダイヤルキーの暗証番号になっている」と告げ、主人公は亀田を置き去りに。この映画ならではのクールな展開です(冷凍室だけに)。

喧嘩を売られた事に気付いた水谷豊は、主人公サイドの刺客であるジーザスとの囲碁勝負を受諾。

ここに至るまでに、ケイパーものとしてのスケール感を増すための説得力が十分に積み重なっていて盛り上がることこの上なし!

結果的にジーザスは勝負に敗れるわけですが、裏を読み合う展開がマジで熱すぎる! まさに福本伸行作品にも似たクライマックスすぎるクライマックス。

そしてついに主人公が水谷豊と対峙! …しかしその前に下っ端ヤクザがゾロゾロと登場! 主人公は問答無用で拳を振るう! ギラつく得物も登場し、アジョシばりの殺傷アクションが展開します。

そして残った二人の戦士。彼らが選ぶ決着とは!

ネタバレをあまりしないようにレビューを書いてみましたが、面白すぎてメモしきれてない部分があります。

復讐ものというよりケイパーもの要素が強く、その完成度が異常に高いのです。キャラもめちゃめちゃ光ってるし、適度な裏切りもあります。ジャンルを超えるがゆえの牽引力も見事。

トンデモ映画どころか、類いまれな完成度を誇る素晴らしいジャンル映画です。

伏線の使い方もうますぎ。あの情報はどうなったのかな?と思っていたらエンディングでしっかり処理して終幕。安心すると共に、心の中でスタンディングオベーションでした。

ラストバトルにもたらされる決着のロジックも素晴らしい。発想のキレと圧倒的な構成力を見せつけられた素晴らしい作品でした。是非ともご覧あれ!