戸梶圭太「赤い雨」

 戸梶圭太5冊目の作品「赤い雨」を読みました。ちょっとこれは凄すぎる。
 戸梶氏の著作物の中で唯一読んでいなかったのがこの作品なのですが…こんな作品が待っているとは思わなかったです。
 あらすじ。
 赤い雨が降った日を境に、いじめ、やくざ、詐欺商法などに泣き寝入りしていた市井の人による「私刑」ともいえる残虐な暴力事件が激増。
 私刑はエスカレート、遂に未成年犯罪者がテレビカメラの前で無惨に処刑され、日本中が狂喜する。。。
 こういったあらすじを読むと展開の広がりがいまひとつ見えてこないのは事実だけど、実際に読んでみるとかなりリズミカルに読めるし、少しずつ加速していく狂気描写が高い精度を保っている。
 スプラッタ描写や激安人間描写になると悪ふざけに走りがちな最近の作品とは異なり、文体も展開も最初から最後までホラー/スリラーの枠をはみ出さずにリアリティをキープしている。
 主軸となるのが子供を流産したばかりの主婦・志穂。赤い雨の洗礼を受けなかった志穂が、「やられたらやりかえす。やられなくとも気に食わない奴を懲らしめる」という狂気に染まった日本の中で孤立していく。 
 おかしい、何かがおかしい…と、日本全体に訪れた変化が徐々に志穂を混乱させていく。その「加速していく」という要素がいかにもホラーのセンスを感じさせてくれるから戸梶は恐ろしい。
 一部の評判では「尻すぼみ気味」とも言われている作品だけど、終盤の展開こそ鳥肌級である。ホラーとして非常に完成度が高い。最後まで緊張感が途絶えない。
 サービス精神を発揮したエンタメ作家としての戸梶に慣れているから、シンプルな文体の作品が輝いてみえるのだろうか? いやいやそれにしても、これは凄いぞ。

赤い雨 (幻冬舎文庫)

赤い雨 (幻冬舎文庫)