誘拐の誤差

 

誘拐の誤差

誘拐の誤差

を買いました。一気に読めました。

本格警察小説 誘拐の誤差
 こんな警察小説が今まであっただろうか!?
  驚愕のラストにあなたは絶句する!!(太字明朝)

 タイトル、カバー絵、帯のコピーがいかにも横山ヒデオ的。トカジ氏もblogでそれを狙ったと書いている。
 小説推理に連載されていた作品だからか、普段のトカジボンより引っ張るチカラが若干強めである。乙一のデビュー作によく似た「殺害された小学生が霊の立場で事件の行方を見守る」という構図がこの作品でも貫かれている。それによってモチーフそのものの痛みが和らいでいる。
 しかし描かれる世界観は全く逆。心地よさを生む世界ではないけど、トカジの世界観は徹底的に現代的だし、ある種の社会派作家である事は否定できないと思う。
 痛みは和らいでいるとはいっても、事件がどう推移し、どこに落ち着くのだろうというミステリ的な悦びが牽引力を生んでいて、それをトカジ流の人間描写が加速させるかどうかが評価の分かれ目になるでしょう。
 [ふざけ方、加速感、展開の意外性]といった部分に、作家の好みが一線を越えたレベルで発揮されているとどうしても尻すぼみだったりガッカリだったりする。
 それは予定調和との兼ね合いという意味ではなく、作家の冷静さによって読み手としてコントロールされているんだという意識を覚えるかどうかという要素なんですが、この辺の読者感覚はどう考えても表現できそうにないな。
 で、この作品。戸梶圭太の冷静さが感じられたのである。展開の加速感とその中にこめられた冷静さという意味では未確認家族 (新潮文庫)と同等かそれ以上のクオリティで、非常に爽快感がある。
 群像劇というべき作品なのかはよくわからないけど、語り霊のテレポート能力によって、小説なんだから当たり前であるはずの[シーンの行き来の自由度]が濃厚に感じられ、それでいて本筋から外れすぎずにスピードを保っている点は、トカジの作家的腕力を久しぶりに垣間見るような気がした。
 叙述トリックの影を感じさせつつもそういったちまちましたサービス精神は皆無。本格警察小説というジャンルへの明確な回答ともいえる。
 エピローグ的で小学生が大人社会を達観したように語る部分には、戸梶圭太が今まで見せなかった深い思いを突きつけられているようでドキッとしました。登場人物の大部分がセリフにはない心情を透視されている点も、想像以上に難度の高い作業のように思えます。ヨコヤマヒデオ的世界の真逆ですけどね。
 戸梶圭太はいつになったらチルさんをフッてくれるのだろうか。なかなか裏切ってくれません。