親切なクムジャさん

 “親切なクムジャさん / Sympathy For Lady Vengence”を観ました。レンタル。DVD。
 パク・チャヌク監督作品。長編4本目。映画館で1度観て以来久々の鑑賞です。
 現在チルさんは新作長編シナリオと、一応、真剣勝負しているのですが、恐れを知らないパク・チャヌク作品を見ていると敗北感に押しつぶされそうになります。
 ここまで尖った映画を自分は書けるだろうか? やっぱり序盤からガンガン攻める展開にしなきゃなぁ… 俺のLVは根本的に薄味なんじゃないか?
 などと言った苦悩が脳内を飛び交います。
 しかしこの映画は、やっぱり面白いですなぁ。こんなに面白かったっけ、と感じるほど。中盤までの展開にスキが無いです。
 女の超絶復讐劇、という意味ではKILL BILLと同じといっていい。パク・チャヌクもQTさんも重度の映画マニアである。彼らに手にかかれば緊張感をキープしつつノビのある描写をしていくなんて容易な事なのかもしれない。
 ストーリーの時系列なんてものは彼らにとって大した問題ではないし、観客にとっても大した問題ではないと分かっているのかも。なるほどなるほどそうなのか。と今更気付いてみる。
 オープニングは雪原に飛び散る血飛沫と生クリームの上の赤いソースを重ね合わせたCGアニメーション。実質的には刑務所を出所する美女、という描写から映画が始まる。1stシーンで表現されているのは“親切な”はずのクムジャさんが魔女のごとき冷酷さを称えた人間に変貌してしまったという事実。
 中盤までは、クムジャさん親切版とクムジャさん魔女版の対比をテンポよく描いていき、笑いと牽引力と緊張感を生んでいく。陰と陽を交互させる単純な対比に留まらずかなり細かいカットバックも頻出し、マニアックなレベルで勝負してるな〜と感じさせる。
 KILL BILLのThe Brideはハトーリハンゾーに刀を作ってもらう以外は全て独力で復讐を成し遂げた。クムジャさんは刑務所内における全方向型奉仕活動によって作り上げたコネクションによって復讐完遂への道のりを進んでいく。
 協力者達はクムジャさんに寝床と拳銃を用意し、仇の居場所を教える。この辺りは独特の世界観とも思えるが、いかにもコメディ風で都合が良すぎる感じも受ける。
 しかしこの映画の終盤の重たさは紛れも無い復讐劇であることを観客に突きつける。コメディの心地よさを吹き飛ばすほどの陰鬱な展開。イ・ヨンエがこんな映画に出て良いのだろうか。
 その意外性を含めてパク・チャヌクはこの映画をその豪腕で片付けてみせる。ラスト近辺の鮮やかさとさわやかさは、描写1つ1つの重さから観客を解放させるかのよう。それでも真の解放は存在しない。描写の重みとテーマの重みが観客を捉えて離さない。
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 やっぱりパク・チャヌクは恐ろしい。手の平の上で踊らされてるような怖さがある。そんな脅威に触れることで自分も大きくなっていくのだと思いたい。勉強させていただきました。
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 オーディオコメンタリーでイ・ヨンエが「アクションの魅力を理解できた、アクションシーンを好む男性俳優の気持ちが分かった」と語っているのに対し、パク・チャヌクは「私はアクションシーンは撮りたくない」と語る。それを聞いてオールド・ボーイ長回しガチンコアクションシーンを思い出す。恐ろしいディレクターだ。