渇き

 パク・チャヌク作品「渇き/Thirst」を観ました。
 個人的に吸血鬼/ヴァンパイアというモチーフは強く惹かれるものがあるのです。おそらくインタビュー・ウィズ・バンパイアとフロム・ダスク・ティル・ドーン屍鬼(小説)の影響なんだろうと思います。
 パク・チャヌクが2009年に生み出した吸血鬼はキリシタン×ヴァンパイアという新鮮な組み合わせでした。この組み合わせはfrom dusk till dawnで既に提示されていたものの、from dusk〜におけるヴァンパイアは理性を完全に失って生贄に飛び付く獣じみた存在。
 「渇き」の主人公は敬虔なクリスチャンであり、真摯な自己犠牲精神の元に致死ウィルスの被験体となるのですが、何故か蘇ります(輸血を受けたシーンがあったみたいですがよく憶えていない)。そこから彼の苦悩が始まるわけです。
 人に危害を加えずに血液を手に入れ、己の渇きを癒す。ヴァンパイアがゆえに昼間に行動できないという縛りに加え、キリシタンとしての苦悩もそこには含まれている。奇跡的に生還した神父という立場から各地から重病人が頼ってくる。
 それらの要因が生み出したストレスがいよいよ爆発し、快楽という罪を背負ってしまう主人公。苦悩と罪とが連鎖していく様は美しい。
 それにしてもチルさん、血が流れる映像というものが苦手であることを忘れていました。手首からドローリ流れる血液を見た直後から貧血状態に突入。映画館の片隅でひそかに身もだえしていました。
 後半以降は貧血も回避できましたが、復讐三部作でも容赦ない“痛み”描写をガツンガツンドロップしてきたパク・チャヌクの監督作品。鮮烈なイメージが連発されるのは当然でした。
 世界中の映画人がヴァンパイア映画でやりたかったであろう描写というものをパク・チャヌクは片っ端から食べつくしていきます。映像面だけでなく、心理面においてもそつのない深みを実現している。監督が「JSA」の頃から抱えていた題材らしく、濃密な映画というものは一朝一夕には出来上がらないということでしょう。
 ヒロインのキム・オクビンさん(成海璃子似)はキュートでけだるくてエロティックで奔放で…よくもまあこれほど多様な表情を見せられるなぁと感心しました。
 なんだかDVDが欲しくなる見事な映画でした。隣国にこんな映画作家がいるんだからもっと刺激受けないとねぇ。。。