ザ・レイド GOKUDO

ザ・レイド GOKUDO』を観ました。2014年10月24日、TOHOシネマズ日本橋にて。




10月下旬に東京国際映画祭が開催されました。東京に住み始めてずいぶん経ったものの映画祭で上映される作品を観に行くという発想がまったく無かったのです。Twitterの影響もあってか「どんなのが上映されるんだろうなあ」と思い調べてみました。


押井守の実写SFファンタジー映画『ガルム戦記』なんかも気になったのですが、「あー絶対観なきゃいけないな」と思ったのが『ザ・レイド』の続編として製作されたこの作品。気付いた時には既に7割ほどチケット売れてましたが、そこそこ良い席を確保できました。


前作『The Raid :Redemption』はインドネシア映画。監督はウェールズ出身イギリス国籍のギャレス・エヴァンス。プロとしての実績は皆無と言える無名監督でした。



マフィアのアジトとなっているボロい高層ビルに特殊部隊の精鋭たちが突入をしかけるものの、準備万端で待ち構えていたマフィア連中の超反撃を喰らい、グッチャグチャの大乱戦になっていく…というお話です。ストーリーはあってないようなものです。





The Raidでは東南アジアで伝わる「シラット」という格闘技が強烈にフィーチャーされていて、素手で(あるいは武器を持って)展開するハイスピードな格闘描写が世界的にもかなりのインパクトを残しました。


シラット格闘とカンフー格闘との違いは、ヒジやヒザによる打撃が多く見られ、拳や足先を当てるカンフーよりも重みを感じさせる点ですね。あとは相手の足を払って下半身を崩すムーブ、壁や床に相手を打ち付けてしっかりノックアウトするムーブが多い。主人公を演じたイコ・ウワイスはシラットをガチで選手。


さらにザ・レイドはプロレスチックに派手な投げ技やレスリング系の関節技、絞め技も加えられていたり、シチュエーションを活かした立体的な動きだったり、ナイフやトンファーを使って流れるような動きで相手を次々と再起不能にしていく様は圧巻の一言で、格闘アクションの新時代を切り拓いていると言っても過言じゃないレベルなんですね。


最小限のドラマ性サスペンス性も用意しているものの、アクション描写を筋肉に例えるなら、ドラマという脂肪を極限まで削ぎ落とした超アスリート型アクション映画でした。まだご覧になっていない方、あなたはラッキーです。すぐレンタルしましょう。



さて、今回の『ザ・レイド2』です。日本での公開は11月22日ですよ。





前作があまり当たってないからタイトルに2を付けるのを遠慮するのは、百歩譲って許すとしても、GOKUDOを謳った映画のクセにヤクザの存在感はかなーーーり薄いです!! 日本の役者がすんごいアクションするわけないんだから、予告編の構成とかで日本要素の濃度をアピールしたってガッカリ感増すだけですよ!! 角川さん自重!



『The Raid 2 : Berandal』が原題なんですが、この「Berandal」というのは1作目『The Raid : Redemption』が出来上がる前に存在した企画のタイトル。しかし予算が足らずに製作を断念。その代わりに撮影場所のほとんどをビル内部に限定した1作目が出来上がることになったそうです。



1作目が全世界的にセンセーショナルなアクション映画として認知され、製作費も集まったのでいよいよBerandalの製作に着手。元のシナリオを改変してThe Raidの続編として仕上げたそうです。とはいえ前作から継承されるキャラクターは主人公と、主人公の兄、悪徳刑事の3人くらいです。



主人公はさらなる巨悪を打倒するためにマフィア組織に潜入捜査することを命じられます。その潜入の経緯がなかなか斬新でした。刑務所に収監されているマフィアトップの息子の信頼を勝ち取るため、自分も囚人として同じ刑務所に入り、「腕っぷしは強いけど背景のない男」を演じる事になります。



香港の潜入サスペンス映画『インファナル・アフェア』シリーズでは、2作目が1作目の過去を描いていて警察官がマフィアに(マフィアが警察に)潜入する過程を丹念に描いていましたが、それを思い出しました。



The Raid 2では、主人公が刑務所でマフィアのボス・バングンの息子ウチョから信頼を得るためのアクションシーンが2つもあるのです。潜入捜査する以前の段階ですよ? トイレの個室で展開する1vs数十人のバトルと、野外の運動場での囚人軍団vs看守軍団のバトル。序盤なのですがどちらもあっつあつ。本気中の本気



トイレでの格闘は素手なのである意味シンプルな格闘なのですが異様に狭い空間での格闘は超新鮮。ドアの開閉や便器の使い方、壁や床もちゃんと使います。前作に続いて今作もアクション全般をデザインしているのは主人公を演じるイコ・ウワイス自身なのですが、映画人としてキャリアが浅いはずの彼が世界を驚かせるような格闘を描写し得るのは、いかにシラットが実戦を想定した格闘技であるかの証明なんだと思います。



ヒジ・ヒザの打撃、下半身および上半身を崩す技など、短い時間に色んな見せ場が凝縮されています。早いのに重たい技のラッシュ! ギャレス・エヴァンス監督はカメラワークや編集で説得力を出すのが本当に上手い。アクション映画が大好きな人なんでしょう。



運動場バトルはモップの柄やナイフ、警棒などの武器を駆使した大乱闘なのですが、ただでさえ撮るのが面倒なワチャワチャの大人数戦を、大雨の降る土のグラウンドで泥まみれになりながら行っているのです。潜入捜査する話なのに、潜入前からどんだけ本気なんだよ!と。観客の期待に真っ向から挑む姿勢が本当に素晴らしいです。



攻撃方法に武器が加わっているので瞬時に致命傷を与える描写が増え、エグさも増しています。主人公のシラットテクニックも存分に堪能できます。カメラの手ブレが多めのシーンなのでやや戸惑いはありますが、テンションの高さは凄いです。ナイフで敵のふくらはぎをざっくりと切り裂く描写がすごく印象的でした。



は〜。こんな調子で書き続けたらめちゃ長くなるよ! だってまだこの先に残ってるアクションシーンだけで9つもあるんですよ!? とんでもない映画です。身体張ってこういう映画を完成させてくれたキャスト・スタッフの苦労を思ったら、「ドラマ性サスペンス性を足したことで上映が150分にまで伸びて冗長気味」とか書けません!



ストーリー展開は前作よりもかなり複雑になっていて、一般的なアクションよりもう少し面倒くさいかもしれません。監督がしっかり温めてた企画だけあって、決定的な斬新さこそ無いものの厚みのあるストーリーでした。ただ、見ながら取ったメモには「物語に火がつくのが遅」いって書いてあります。



日本の有名俳優を起用してまでねじこんだヤクザ軍団が、「戦争だよ!」と遠藤憲一に凄ませているのにストーリー展開にあまり関わってこないのです。怖い怖いアンタッチャブルなヤクザ様の周りを、インドネシア国内のマフィア2組が飛び回りながら潰し合ってる構図ですかね。



マフィアに潜入することに成功した主人公・ユダ(潜入用の仮名)は、ボス・バングンの息子・ウチョの右腕のようなポジションにつき、彼の暴走に振り回されていきます。主人公ユダを演じるイコさん、芝居もかなり上手いですよ。具体的にはよく覚えてませんが、ところどころで良い表情とか見せてて数年前まで素人だったとは思えません。



マフィアの一員としての最初の仕事(=アクションシーン)はポルノDVD工場のオーナーからショバ代を取り立てる流れで。このオーナーが素直に支払うとアクションにならないので無駄に抵抗する哀れな人物がオーナーをやっています。



ここが大規模なアクションシーンその3です。ショットガンやマシンピストルといった銃器も登場してかなり派手なドンパチが展開されますが、アクション開始の直前の緊迫感の出し方が一手間かかっていて流石だなと感じさせてくれます。主人公ユダは基本的に素手でのシラット系アクション中心ですが、アイディア豊富な攻防を見せてくれます。



予告編でもあった、「窓ガラスを突き破って横っ飛びで着地する、その動きを追うカメラもキャラクターと同じ角度で倒れこむ」という超絶フレッシュなカメラワークが見られるのもこのシーンです。ギャレス・エヴァンス×イコ・ウワイスの組み合わせは本当に奇跡的。



工場シーンの次は、主人公の視点を離れ、別のキャラへ。前作で強烈な存在感のラスボス・まっドッグを演じたヤヤン・ルヒアンが、前作より汚らしい風貌で登場。ホームレス状態の彼がいきなりナタを駆使した激しい殺陣を見せてくれます。このキャラはユダが潜入しているマフィアが抱えているヒットマンで、アクションの切れ味は前作にも劣りません。予告編でも見られる股裂きムーブがやっぱり鮮烈。



この新キャラのプラコソが、ナイトクラブ(≒キャバレー)でのアクションシーンにつながっていき、対立するマフィアグループの陰謀によってターゲットにされます。奮闘むなしくプラコソはここで殺され、そこから物語が動いていきます。



大人数に襲われるプラコソはシラットらしいキレッキレの動きで対応し、各個撃破していきます。キャラクターとしてめちゃめちゃ輝いてます。そんなキャラを演じてるヤヤンさんのプロフィール見たら1968年生まれですからね。凄まじい意気込みですよ。



しかしそんなプラコソも、さらに強烈なキャラクターを光らせるための踏み台になってしまうんですね。プラコソを倒す新たなキャラの名前が"キラー・マスター"!下手に名前付けるよりよっぽど面白いですね。キラー・マスターという名称は映画内に登場しませんけど、前作であれほど強かったマッドドッグ(とは違うキャラだけど)をこてんぱんにぶちのめす(というか切り刻む)この男は一体なんなんだ!と、観客の想像力をビンビン刺激してくれます。



プラコソの死をヤクザになすりつけることで、停戦状態で保たれていた均衡を破るのが対立マフィアの目的なんですね。そこからユダの立場も危うくなっていきます。



対立マフィアはヤクザにも襲撃を仕掛けるのですが、そこで登場するのが異様にキャラの濃い3人のヒットマン! 前述のキラー・マスター、そして両手に持った金槌で戦うサングラス女"ハンマー・ガール"、そして野球の金属バットを持ちパーカーのフードをかぶっている"ベースボール・バットマン"。



アクション映画において、ハンマーあるいは金属バットという武器にこだわるキャラクターはちょっと記憶にないのですが、使う武器を限定することで観客の全員に強烈なインパクトを残すことに成功しています。ベースボールバットマンは路上&ビル内部で、ハンマーガールは地下鉄の車内で、それぞれ複数人のヤクザを相手にシャープな立ち回りを見せてくれます。予告編でも結構ネタバレしてるんで、期待したまま映画館で楽しんでください。



組織の雲行きが怪しくなってきた頃、主人公ユダがTAXIに乗ったところで多人数に襲撃されます。後部座席に乗ったユダに左右の窓からナイフを突き刺すという、シンプルだけど恐ろしい襲撃。またまた異常にテンションの高いアクションシーンです。必死にTAXIを運転して逃げつつ、そこから日本料理店に逃げ込んでの格闘シーンへ。



レストランなので刃物や色んなアイテムが散乱してます。ここの超ハイテンポ殺し合い描写も圧倒的で、首を刺したりどこぞの健を切ったり鉄板で相手の顔面をジュージュー焼いたりします。ユダの動きでは、相手からの攻撃にカウンターで一撃必殺とか、鮮やかすぎてワクワクしっぱなし。本気で殺し合ってるがゆえの爽快感に満ちたシーンで凄く感動的でした。



ここで襲ってきた人間の懐を調べると警察のバッジだった、というムムムな展開なのですが、その辺のくだりはすぐアヤフヤになってくるので結構どうでもいいです。



ドラ息子ウチョは対立組織の口添えのせいもあり、自分の父親を殺してヤクザとの戦争に打って出る事を選びます。正直なところ、責任を与えられないウチョが不満に感じる心情は分かるものの、それを超越して「ヤクザとの戦争こそが正解」だと思い込むまでの過程が理解できなかったです。この映画を観るに当たってそういう要素は割とどうでもいいんですけどね。



主人公ユダはクーデターによるウチョの父親殺しを防げず、ボスであるバングンの側近だった男・エカを逃がす事に成功するものの、キラーマスターにノックアウトされて拉致られます。気絶状態で車に載せられ運ばれていくのですが、ここでエカが車で追いかけてきます。カーチェイスシーンの始まりです。



市街地でのド派手なカーチェイスはCGで誤魔化せるような金のある映画ではないのでこれまたガチンコの映像。監督は『ブリット』『RONIN』を意識して撮ったらしいですが、カーチェイスシーンのためだけに香港からアクションコーディネートのチームを呼び寄せたようです。そういう意識の高さが凄いですね。



しかもこのカーチェイスの最中、走行中の車の中でユダが4人の男を相手にせまい空間で格闘するんですよ。ユダを追いかけているエカは銃で撃たれてるので、このシーンはカーチェイス×銃撃戦×格闘アクションのハイブリッドなんですよ。そんな映画、そんなシーン見た事ありますか?



カーチェイスのテンションも高いんですけど、1台が派手に横転する場面で突っ込むプレハブ風の建物が、撮影のために急ごしらえで作ったって感じがモロに出てて笑いましたね。決して潤沢な製作費がある作品ではないんですけど、それでもサービスを追求する。その姿勢を誰が馬鹿に出来ますか?



とにかく力のこもったカーチェイスが終わってユダはなんとか自由の身になり、エカと合流。エカは自分が潜入捜査官であることを明かします。瀕死のエカを残し、ユダはウチョをそそのかした黒幕であるブジョのアジトへ単身殴りこむわけです。



そうです。クライマックスです。やっと。



アジトに乗り込んだユダは、マフィアの雑魚たち、ハンマーガール&ベースボールバットマンのタッグ、キラーマスター、ブジョとウチョ。そいつらを全部一人で片付けます



そう考えると、ハンマー&バットという濃いキャラがいたのはアクション映画として大正解なんですよね。前作の敵キャラで言うとマッドドッグの異彩だけが際立っていてボスの麻薬王は大した深みも無いしアクションとは無関係なところで死んじゃうんですが、今回は強敵が3人いる。たまらんですね。



ハンマーガール&ベースボールバットマンとの戦いの幕開けの瞬間、映画館中が笑いに包まれました。マンガみたいな描写をシリアスなトーンのアクション映画の中に放り込んでくるセンスが最高ですね。もちろんバトルの中身も超熱いです。そのバトルの中にキラリと光る悲哀。イカしたキャラだけに、主人公にやられてしまうのが惜しいと感じてしまう。そういうレベルに達した時点でキャラ造形として正解なんです。



そしていよいよキラーマスターとユダのタイマンです。場所は厨房。古き良きカンフー映画のように両者がゆっくりと手足を触れ合い対峙する様子が予告編にも見られるのですが、そこから展開するハイスピードのシラット合戦は素晴らしいとしか言いようがないです。打撃だけじゃなくて崩しや投げをうまく組み合わせていて、一瞬たりとも目が離せないです。カンフー(格闘)アクションの新時代が拓かれたんだな、と思いました。



現時点でアクション映画界における最高のドリームマッチはドニー・イェンvsイコ・ウワイスでしょう。映画人はこの対戦を是が非でも実現させなければいけません。



このラストのタイマンでも攻防に流れがあって、一進一退が続き、ユダが優勢になるとキラーマスターが奥の手を出し、それにユダが反撃し、チャンスをものにして一気に形勢逆転…という起伏がしっかりとデザインに組み込まれています。それを音楽でもちゃんと盛り上げているし、映画史に残る名勝負だと思います。アジョシの潔さとは一線を画していて、まさにクライマックスらしいスピード感と重厚感の融合! 感動です。



ラストにストーリー上でもうひとひねりドラマが加えられていて、その辺もなかなかニクいエヴァンス演出。一部の観客にとっては「もういいよー」って感じかもしれませんが、このラストのひねりでキャラクターにアクションする動機を与えて、映画を動かしている。この辺りの感触は前作と一緒ですね。



本編を見終わると「予告編にあった『北村一輝エスカレーターで拳銃撃ってたシーン』どこ行った!?」と気付きました。そしてヤクザ勢の印象の薄さに驚くわけです。さらにはタイトルのウソ、予告編のウソに対する違和感がどんどん広がっていきます。しかしこれは作品のせいではないのでもう忘れました。



というわけで、The Raid 2:Berandal。どう考えても必見のとんでもないアクション映画ですよ。『MAD MAX』の続編として大きく飛躍した『MAD MAX 2』みたいな感覚かな。



こんな映画を創り出したギャレス・エヴァンスという映画作家。キャリアがキャリアだけにまだ洗練されてない面はありますけど、ただのエリートが一生かかっても手に入れられないセンスの良さと意識の高さ、そして何より映画の可能性を誰よりも信じる熱い魂を持ってる人だと思います。



そんな彼がインドネシアに渡ったことで誕生したThe Raidシリーズという奇跡。是非とも多くの人に見てもらいたいものです。日本公開は11/22です!