ベイマックス

ベイマックスを見ました。2014年12月23日、ユナイテッド・シネマとしまえんにて。

http://www.disney.co.jp/movie/baymax.html






 工作・工学の天才少年・ヒロは、自分の才能を活かす場として、違法なロボットバトルでの賞金稼ぎを選んでいた。いかにも強そうなロボットを相手に、ヒロのロボットはまったく強そうに見えない奇妙な形状。初戦は一撃で破壊されたが、賭け金を上げた2戦目で本領発揮。本体が3つに分離して相手ロボットにまとわりつくと、完膚なきまでに破壊。

 この自作ロボットバトルという題材は80年台のコロコロコミックなんかで見られた、未来的でありながらもノスタルジックな世界観を感じさせるのですが、アニメーションとしてのフレッシュさは流石。

 勝利で大金を得るも、警察に踏み込まれててんやわんや。バイクで駆けつけた兄と共に派手なカーチェイスを見せます。ここもスピーディで楽しかったですね。

 ヒロの兄・タダシもまた工学を学ぶ学生。弟・ヒロの行く末を案じ、自分が通う大学へ連れていく。「単なるNERDの巣窟だろ?」と馬鹿にしていたヒロだったが、各自が自由な発想と豊富な資金で研究に没頭する姿に感動。

 タダシは自分の研究として介護ロボット・ベイマックスを披露。人の状態を感知し、1万通りのケアを施す機能を持つという。校舎を出る頃には「僕もこの大学に入る!」とすっかり心変わりするヒロ。

 ヒロは試験に合格するために独創性の高い発明を完成させることに没頭。アイディアが浮かばず壁にぶち当たる描写もきっちりあって、ただの天才物語にしない構成上のクッションも入ってます。タダシと共に生み出した研究成果を持って大学の入学試験へ。

 ヒロの作品は指先ほどに小さいロボット=マイクロボット。無数のマイクロボットを、頭に装着した発信機によって自在にコントロールし、様々な形の立体物に変形させてみせます。このシーンはLEGOムービーで小さいブロックが圧倒的なボリュームのアートになっていく様を見ているかのような感動を覚えました。

 発表会は大成功に終わり、ヒロは大学入学を認められるのですが、コンベンション会場で大規模な火災が発生。恩師である教授を助けようとタダシが建物に入って間もなく、大爆発が起きてヒロは吹き飛ばされます。

 肉親を失い、大学どころじゃなくなるヒロ。食欲さえ失って自宅でひきこもっていると、ふとしたきっかけで部屋にあったベイマックスが起動し、収納ボックスの中から表れます。ここの可笑しいやりとりは予告編でも見られますね。ベッドの脇からピョコピョコ歩いて出てくるところで、「行きすぎて戻る」という描写があったのに感心しました。

 ベイマックスはヒロの状態を気遣い、問診によるケアを開始。嫌がるヒロだったがベイマックスのペースに飲み込まれ、ツッコミ役になっていきます。「スキャンを開始します」「スキャンするな!」「スキャン完了しました」というハイテンポ漫才のようなボケは、のちに天丼として再び登場。さすがはディズニー、笑いも上質。

 ベイマックスは、ヒロの部屋にある1体のマイクロボットが部屋を出てどこか別の場所へ向かおうとしているのを発見。ヒロは「ただの故障だ」と無視するのですが、ベイマックスは単独でマイクロボットの目指す場所を探すために家を出ていってしまいます。

 ヒロの静止の声も届かず、ズンズン突き進んでいくベイマックス。2人によるコミカルなチョイスシーン。日本テイストを端々に感じさせる街並みも美術のきめ細かい仕事が光ります。

 ベイマックスはやがて寂れた廃工場に辿り着く。そこには火災でオシャカになったはずのマイクロボットが大量生産されていた…1度訪れて空振りだったけど2度目でマイクロボット発見、という流れだったかも。そこは記憶曖昧ですが。

 まあとにかく、ヒロはその工場で自分の発明であるマイクロボットを発見し、そのマイクロボットを自在に操る歌舞伎風の仮面を付けた謎の人物に襲われ、なんとか逃げ延びます。ベイマックスは電池が切れるとなぜか泥酔したかのような状態になるのも面白いですね。この電池切れ描写は後半の山場にも使われるかと思ってたんですが結局なかったなあ。

 自分の発明を奪い、意図的な火災で兄を奪ったであろうにっくきカブキマンに復讐するべく、ヒロはベイマックスのバージョンアップに着手。プヨプヨ風船ボディをアーマーで覆い、ロボットらしいロボットに改造するのですが、肝心の知能は相変わらずゆるゆる。ボケ役として最後まで活躍します。

 あらすじを書くのはこの辺で止めておきます。

 この映画の元タイトルBig Here 6が表しているように、ロボットを操る少年の物語というより、日本のお家芸「戦隊ヒーローもの」をベースにしてるんですね。「そこ」に至るまでの展開がうまいなぁと思いました。

 兄の死を受け入れられずに落ち込むヒロへのケアとして友人にコンタクトを取るベイマックス。ヒロとベイマックスのピンチに、コンタクトを受けたタダシの友人たちが駆けつけ、ゴーゴーという女キャラが運転する車で逃走。ヒロの窮地を知った友人たちは彼に協力するため、各々が得意とする研究を武器にしたヒーローとなることを受け入れる。

 うまいなぁ、って感じで「絶妙!」とまでは感じないんですけどね。

 個性的な人間性、個性的な能力。日本の戦隊ヒーローものでさえ見失っている要素をしっかりクリアしているシナリオは流石だなーと。

 ベイマックスは真っ赤な装甲を装着。足からのロケット噴射(燃料はなんなんだ)で空を飛ぶ姿は鉄腕アトムを、唯一の攻撃方法であるロケットパンチマジンガーZからのインスパイア感を漂わせます。和製ロボットアニメの歴史をきっちり抑えた造形なんですね。

 ヒーローになり、悪役を倒すべく奮闘…という展開は割と王道的というか意外性は感じなかったです。ベイマックスの存在がバレてはいけない!というサスペンス性は早々にうやむやになるものの、悪役に挑んで敗北し、再挑戦しての勝利。意外性に走らず、クライマックスを盛り上げるために必要な前振りをしっかり積み重ねるシナリオです。

 クライマックスでボスを倒した後にさらなる問題が発生し、ヒロはベイマックスと共にその問題に立ち向かうのですが、ここのヒロの心理は序盤でタダシが命を張って人命救助に向かったのが伏線になっていて「あーこの後絶対泣くわー」と予感。

 ところがその第2クライマックスでとんでもない号泣喚起ポイントが盛り込まれていて、まんまと泣かされました。その「ポイント」とは、ロボットであるベイマックスの自己犠牲描写。ロボットもの映画を見てるという意識を持っていれば容易に予想できたはずなんですけど、ベイマックスの天然ボケキャラでそういう展開を予感させまいとするテクニックに負けました。

 そしてそのベイマックスの自己犠牲がロケットパンチでヒロ達を生還させる」という方法で描かれていたのに驚愕。ロケットパンチというネタをこういう形で感動に結びつけたハリウッドの発想に脱帽。もちろんそれだけではなく、ベイマックスがケアを目的としたロボットであるという背景もしっかり生かしていて、とんでもなく感動的なクライマックスでした。涙が瞬時に流れ落ちました。

 そしてエンドロール直前に初めて表示されるタイトル"BAY MAX"! 本来は"BIG HERO 6"と表示されるんでしょうが、そんなのは些細な違いであって、そのタイトルの出し方、タイミングにこれまた大号泣。見事な畳み掛けっぷりでした。

 発明少年が巻き起こすスラップスティックという構図は『くもりときどきミートボール』を思い出しましたが、伏線回収の鮮やかさはあの名作に匹敵していると思います。チームメイトの武器がクライマックスで「こういう風に生きるのか!」と感動しました。

 ベイマックスだけに留まらず、全てのキャラクターが深みを持っていて役割分担が出来ているのも見事。女性キャラはクール&キュートの2パターンを用意し、ベイマックスとは違うタイプ(怪獣マニア)のボケ役も用意。主人公の成長もちゃんと描いてます。

 ベイマックスの飛行シーンを堪能するためにも、3D上映や4DX上映での観賞をオススメします。子供や女性向けの癒やしに終わらず、日本男子のハートを奮い立たせる燃え展開もしっかり完備した素晴らしい作品です。オススメ!!