なんちゃって家族

なんちゃって家族を見ました。元のタイトルはWe're the Millers.レンタルDVDで。



http://wwws.warnerbros.co.jp/werethemillers/






馬鹿で下品なコメディなんですけどシナリオが鮮やかすぎて大号泣しました。近年のハリウッドコメディ映画の中でもトップクラスの完成度なんじゃないかと。



なんて、そんなに沢山映画見てないくせに断言しちゃうのは「こんなにレベルの高いシナリオがゴロゴロ転がってたら困るから」です!





あらすじを書きながら振り返りまーす。



マリファナ売人のデヴィッドは幅広い客層に支えられてそれなりに稼いでいたが、ある日大学の同級生と町でバッタリ再会。同級生は太鼓腹の中年オヤジと化していたが家庭を持って幸せそうだ。自由を謳歌する独身男デヴィッドを心からうらやましがる同級生。そんな彼と別れたデヴィッドは複雑な表情を浮かべる。



ストリッパーのローズ。アホな同僚と共に、アホな店長の元で働いている。ウンザリだ。



デヴィッドとローズは同じアパートの同じ階に住んでいる。ローズにちょっかいをかけるデヴィッドだが、いつも冷たくあしらわれている。



同じアパートの1階に住むケニー(18歳・アホづら)は親に見放されたネグレクト状態。デヴィッドにマリファナをねだるものの、「子供には売らない」といつも拒否されている。



デヴィッドと話していたケニーだが、アパートの前で3人のチンピラにからまれている女の子を見かけて無謀にも助けに入るのだが、簡単にのされてしまう。デヴィッドは仲裁に入りケニーを助けようとするが、チンピラの「おまえ警官か?」という問いに対し「違う。もっとイカしたドラッグディーラーだ!」とケニーが口をすべらせ、結果的にチンピラにマリファナと貯金を全て奪われる。



デヴィッドは元締めのボスの元に連れて来られて弁明するが許してもらえず、「メキシコでブツを受け取ってこい。そうすれば貸し借りなしで、さらに10万ドルやろう」と命じられる。承諾するしかないデヴィッド。



この序盤はかなりハイテンポで、別の言い方をすれば端折ってます。リアリティを疎かにしている面もあります。この作品の弱点のうちの1つです。しかしコメディとしての濃度はかなりのものなので初見では気にならない。



デヴィッドは突如命じられた密輸の方法について頭を悩ませるのですが(wikipediaで調べる間抜けっぷりが笑える)、あることをきっかけに「ニセの家族と一緒に旅行者を気取ればバレねえだろ!」とひらめきます。



もちろんこの展開には冒頭の「同級生との再会シーン」が前振りになってます。無意識のうちに抱いていた家族への憧れがあったんですね。



なぜかデヴィッドをリスペクトしちゃってるケニーはニセ家族になることに同意するものの(というか話を持ちかけられて承諾する場面すら描かれてないw)、母親役として目をつけたローズは報酬にもなびかずに破談。娘役として、ケニーが助けようとした家出パンク少女・ケイシーをスカウト。1000ドルでOKをもらう。



デヴィッドの申し出を断ったが、なりゆきでストリップクラブを辞めることになり、収入が途絶えてしまったローズ。投げ捨てた飛行機チケットを拾ってなんちゃって家族(Millers)になることを決意するのだった…



家族を装った密輸旅行というシチュエーションを整えるまでに要した時間は18分。ここからアホアホな大冒険が炸裂します。



空港を降り立ち、用意されたキャンピングカーに乗ってメキシコへ入国。麻薬組織のアジトで2トンのマリファナをすんなり受け取り。ここの流れがスムーズなところも含め、この映画が「無事に麻薬を届けられるのか」というハードル・障害にピントを合わせていない事がわかります。



もちろんスムーズな流れの中にはくだらないギャグがてんこ盛りで笑えるんですけども。



アジトを出た途端に一人の警官に呼び止められるシークエンス、この場面は笑いのネタとしては大きめ。「1000寄越すか、しゃぶるか」という酷い二択を迫られるんですが、デヴィッドとケニーの醸し出す空気が絶妙。こういうことを乗り越えて4人の結びつきは強くなっていきます。



再び国境を越えてアメリカに入ろうとする場面、ここはさすがにサスペンス性に満ちたシーンです。車には2トンのマリファナ。逮捕されればメキシコで25年の懲役…



ここで、デヴィッドたちの隣に並んだキャンピングカーに乗った、やたらとフレンドリーなフィッツジェラルド一家がデヴィッドたちにまとわりついてきます。家族とニセ家族がお互いに自己紹介すると、ケニーはフィッツジェラルド家のメリッサに一目惚れ。



ここから物語は密輸スラップスティックと、童貞ケニーの成長物語という2軸で描かれていくことになります!



スラップスティックとしては、バラバラの方向を見ていたニセ家族4人が「しつこいフィッツジェラルド一家」という障害に対してどうにか対処しようと一致団結するために辻褄&口裏を合わせるというところがポイントになり、さらにはそこに「マリファナをニセ家族に奪われた危険なディーラー」という別の障害がからんできます。



急ブレーキのせいで頭上のボックスから落ちてきたマリファナのパッケージをタオルでくるんで隠したら、フィッツジェラルド家に「まあ、赤ちゃんがいたの?」と勘違いされて。そのまま赤ちゃんがいるテイでウソをつき続けるところは大ネタのうちの1つ。このウソがどのようにしてバレるのかがすげえバカバカしくて笑えます。



ウソがバレないように辻褄を合わせるうちにニセ家族は連帯感を得て、お互いを理解し、情が芽生えていく。この構図が素晴らしいですね。



フィッツジェラルド家の旦那は冴えない中年おやじに見えて実は元DEA(麻薬取締局)の捜査官だったと分かり、さらに緊張感倍増。赤ちゃんだと言い張ってる物の正体はごっつい量のマリファナフィッツジェラルド家の妻はしきりに「赤ちゃん抱かせてね〜」とせがむ始末。笑えます。



ニセ家族のキャンピングカーが故障し、立ち往生しているとそこに通りかかるのは当然フィッツジェラルド一家。車はすぐに修理できず、ニセ家族はフィッツジェラルド家と一晩のキャンプを過ごすハメに。



ニセ家族のケニーはメリッサとかなりいい感じになっていて、キャンプをすると聞いて喜びを隠し切れない様子も描かれています。



キャンプではフィッツジェラルド家によるリサイタルだったり、「お題を絵で表現するゲーム」などが行われますがどちらも笑えます。ケニーが描いた絵に対してローズが「A penis! penisでしょ! でっかいDick! ほら、そこがタマで…」などと熱くなり、最後には「Black Cock Down!」と高らかに宣言。ほんっとくだらねえwww 最高です。



そんな催しの後、ケニーはメリッサとキスしそうな雰囲気になるも勇気が出ずにハグ。そのまま別れてしまう2人。それを覗き見していたニセ家族はやきもき。童貞ケニーに色んな助言を与えます。これがクライマックスの伏線になってます。



というかここで張られた伏線がクライマックス前で一旦回収され、さらにデカい伏線につながっていくのです。その技術には心底感心しました。コメディとはいえ、ものすごい高い目標を持って書かれたシナリオだと思います。



車のキーを盗み出そうとテントに忍び込むシークェンスはとにかく笑えるし、キスできずに落ち込むケニーをケイシーが慰めるくだりはバカバカしくも圧倒的なフレッシュさがあって凄いインパクトでした。



フィッツジェラルド家と別れて一安心し、自動車修理工場にやってきたニセ家族だったものの、そこには追ってきた麻薬ディーラーが待ち構えていてピンチに。一家のあの人による大胆な発想によってなんとか切り抜けます。



一難去ってまた一難。逃げる際のドタバタでケニーがタランチュラにタマを噛まれ…大事なことなのでもう一度書きますが、ケニーがタランチュラにタマを噛まれ、陰嚢が大きめのアボカドサイズに。ペニスを露出してもボカシがかからない映画という意味でこの作品は非常に価値があるのかもしれません。もちろん作り物のペニス&陰嚢なんですけど、3カットくらい寄りの画で見せるから凄いよなあ。



帰路を急ぎたいニセ家族は病院に足止めを食らいます。そこで登場するのがスコッティPというチャラい馬鹿男。病院の待合室にいたケイシーはそのスコッティPといい感じになります。ものすごく非常識なことをしているニセ家族よりも、さらに非常識なキャラクターを放り込み、笑いを生み出しています。スコッティPの決め台詞「Know what I'm saying?」はギャグとして秀逸。



しかし笑いのためにキャラをぶちこんでいるのではなく、メインキャラクターたちの人間性を浮き彫りにしたり、そこを伏線とした大きな感動を生むために駆使しているんですよ。本当にお見事。



スコッティPにべた惚れしちゃってるケイシーを見たローズは「ちゃんと考えて付き合いなさい!」とイライラ。これはつまり、ニセ家族相手でも隠し切れないローズの母性本能が描かれているし、ローズ自身が男選びで失敗している過去も表現しているんですよ。



マリファナの配達期限が迫っているためにデヴィッドは焦ります。ケニーが退院した直後、彼が乗る車椅子を押しながら全力ダッシュ。ケニーは車椅子から放り出されて転倒。そんなデヴィッドを見たローズは彼を非難しますが、返す刀でデヴィッドはもらえる報酬の総額について口をすべらせ、3人からの信頼を失います。



責められたデヴィッドは一人でキャンピングカーに乗り込み、密輸仕事を終わらせようと車を走らせます。残された3人は独立記念日を祝した花火大会の会場でバラバラに。



ケイシーは話し相手にスコッティPを呼び出すものの、唐突にキスしようとしたスコッティに困惑。それを見かけたローズが激怒しながら割って入ります。目の色を変えたスコッティの前にケニーが立ちはだかり、デヴィッドに教えてもらった「勇気の出る方法」=「3つ数えて踏み出す」を実践しようとするのですが、その前にローズがスコッティをぶん殴ってKO。



この場面がクライマックスでの超すんごい切れ味の伏線回収につながります。



置いてきぼりにされた3人のニセ家族の前にデヴィッドが現れ、改心した事をアピール。その姿を見たローズは土下座を強要するのですが、このくだりもかなり面白い。



合流して再出発しようとしたところ、ニセ家族の前に三度登場するフィッツジェラルド一家。別れてからとある理由でメリッサに誤解されていたケニーは必死に弁明しようとするあまり、自分たちがフェイクの家族であること、メキシコで仕入れたマリファナを運んでいることを告白してしまうのです。その告白の直前にも笑いの伏線回収があったりして、かなり周到なシナリオを堪能できるのですが。



緊張感が走る2つの家族の前に、麻薬ディーラーが登場。メリッサが人質に取られて大ピンチ! クライマックス!!



銃を向けられたニセ家族をかばうためにデヴィッドが「悪いのは俺だ。彼らは巻き込まれただけだ」と言いながら、ケニー、ケイシー、ローズの人間性を褒め称えるんですね。ここも十分に感動的。あんなにいがみ合っていたのに本物の家族以上にお互いを思いやっている。泣けますね。



そしてこのピンチ、2つの家族が協力して切り抜けるわけですが、最終的に片をつけるのがヘナチョコ童貞野郎ケニーなんですよ。



メリッサが目の前で瞳を閉じてもキスすることが出来なかったケニーが、スコッティと対峙した時に殴るのをためらってしまったケニーが、



躊躇することなくディーラーをぶん殴りノックアウト! そして間髪入れずにメリッサを抱きしめてキスするのです!



この切れ味が超最高! たった数秒で見せつけるケニーという少年の成長の跡!! あれもこれも伏線だったと理解した瞬間の爆発的な感動!! 涙が流れるというよりも涙腺が破裂する勢いで泣きました



フィッツジェラルド家との折り合いはどう付けるか、そして密輸ミッションを命じたボスとの関係がどうなるか、そして4人の関係は…といった部分に関しても素晴らしいオチを付けてくれて、シナリオの整い方については圧巻としか言いようが無かったです。今年見た映画でもトップクラス。



弱点があるとすれば、前述の「序盤の端折り方」、そしてメキシコの麻薬組織がショボすぎない? って点くらいですね。どちらもリアリティ面でのいちゃもんなので、コメディ映画でそこを突くのは野暮かと思います。クライマックスの圧倒的なキレを見せられたら文句は付けられません。弱点を改善したところであれ以上の感動につながったとは思えないし。



伏線を張って回収するという技術が一番映えるのはコメディなんだなと理解するに至った素晴らしい映画でした。何度見ても泣けるという意味ではソフトを絶対に入手しなくちゃいけません。



感動の根源が童貞の成長物語という部分に因っているため、女性には共有しづらいかもしれませんが、多くの人に見てもらいたい優秀なコメディ映画でした。童貞と、かつて童貞だった連中は必見の映画ですよ!!



余談ながらクライマックスの感動はキム・ギドク『うつせみ』のラストカットを見た時の大号泣に匹敵します。あれも自宅で一人DVD見ながらの涙だったなあ…